
○歩いて回った人としてダンテ・アリギエリの『神曲』(3冊)
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『神曲 地獄篇』(2014)原 基晶(訳)講談社学術文庫
●「地獄篇」を読む前に
・1300年の復活祭に、ダンテが、地獄、煉獄、天国の彼岸の世界を旅して神に出会うまでを描いている。
・ダンテが、問い続けたのは、なぜ罪のない人々が、正しい人々が、万物を統べる神のいるこの世界の中で、苦しまなければならないのか、という答えのない問いであった。
●各歌解説
・ダンテが死後の世界への旅に出たのは、35歳の時と考えられる。
・人類の贖罪に必要な案内者を、帝政ローマを象徴するローマ帝国第一の詩人ウェルギルスに定めた。
・学知という倫理的な徳、それを実践し詩作をするという行動の徳、両方を統合するのが詩人。

・地獄には、悪臭、瘴気が満ちている。
・商業の発達には、安心して取引ができる環境である平和が必要だと(ダンテが)考えていたと思われる。
●各歌
・「彼(ウェルギルス)は歩き始め、そして私(ダンテ)は後ろについていった。」
・ベアトリーチェという名前は「神の恵み」を表し、アレゴリーとして神学になる。
・「あらゆる希望を捨てよ、ここをくぐるおまえ達は。」
・地獄での進路は、左に決まっている。真実だけがそれらを乗り越える道なので、右へと進路をとる。
・倫理学といえば、アリストテレスの『ニコマコス倫理学』を指した。
・「私はすでに思索しながら歩いていた。」
・この時代には、哲学的な論題について思索しながら歩むという意味を持っていた。
・1200年代にイタリア商人たちは、国際貿易網を利用し、為替によって、生産労働によらない莫大な利益を上げる金融技術を生み出し、短期間に急激な利潤をあげた。
・苦しい登坂は、アレゴリー的には「理性」の助けで、更に大きな悪に立ち向かえることを指す。
・キルケ―は、人を豚に変える魔女。安逸を意味する。
・地獄で(ダンテが)過ごした時間は、24時間。
●新訳刊行にあたって
・『神曲』は、西欧文学の古典中の古典であり、キリスト教文学の最高峰。
・地獄の深遠にはじまり天上での見神に至る「垂直軸」、大西洋の果てからガンジス河に至る「水平軸」、創生から最後の審判後の永遠に至る「時間軸」をあわせもつ雄大な構想は、他に類をみない。
・1冊の書物に、全宇宙を封じ込めるという命題。
・『神曲』は時代の転換をもたらした。西欧キリスト教十字軍が、イスラーム文明に侵攻して、二大文明の衝突が起きた時に「戦って奪う」という戦士の文化を否定し、「理性による対話と理解」という都市商人の文化を説き、その論理的帰結である世界平和が人類の理想であるという思想を打ち立てた。
○『神曲』 あらためて凄い!キリスト教信者が読んだら、どんな感想を持つのだろう。より信仰が強化される?
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『神曲 煉獄篇』(2014)原 基晶(訳)講談社学術文庫
●「煉獄篇」を読む前に
・ダンテは、地獄のような現実の中で、人は個人としていかに生きればよいのかを考察している。このために「煉獄篇」には、彼のよく知る人々が数多く登場し、それゆえに「友情の篇」という別名を持つことになった。
・都市が勃興してくると、第三の勢力である市民が台頭してきた。
・社会が、上層階級(貴族、高位聖職者)中間層(都市市民)下層階級(農民や都市労働者)に分かれると、死後の世界も、天国、煉獄、地獄の三階級に分かれた。
・高貴とは、血統でも聖職として神に近いことでもなく、生き方の問題となり、それと共に死後の世界における人の高貴さの判定も複雑になった。
○「高貴さ」とは? どんな生き方をすれば「高貴」と判定されるのか?
●各歌解説
・ダンテの思想では、帝政ローマは、神慮による歴史プログラムの中で、人類の救済のために必要不可欠。
・煉獄山頂までの踏破が、倫理的完成に至る道。
・「恨みを忘れ、相手を赦すこと」
・畏れを知る詩人の姿を高慢とは呼ばないだろう。
・悪の根源は、高慢。すなわち、神への反逆にある。高慢は、7つの大罪(Peccato)の中で最も重い。
・全100歌の中心、第50歌目(煉獄16歌)で、ダンテは「聖俗分離」を主張。
・地上の統治を司る世俗権は、皇帝が握るべきであり、精神の教導は、教皇が行うべき。

・アリストテレス思想を奉じる逍遥学派(ペリパトス)が歩きながら哲学的命題や知の神について思索。
・ダンテも、神の事績について「考えをめぐらせながら」歩いていた。
・煉獄は、理想のローマ帝国のあり方を象徴している。
・父のようなウェルギルスが去り、ベアトリーチェが厳しい母のように、ダンテの罪を天使たちに説明。
●各歌
・オデュッセウスは、傲慢にも人間は己の能力だけで、森羅万象を知ることができると考えた。ダンテは、知と理性を頼りつつも、その限界をもわきまえている、キリスト教時代のあらたなオデュッセウスとして、自身を描いている。
・悪の誘惑は、人の最も弱いところから攻めてくる。
・アリギエリ家は、地域経済を支える小金融業者だった。ダンテの発想は、商人の文化から来ているものが多い。
・煉獄では、進行方法は、右となる。
・「憐れみ」は、「嫉妬」と正反対の徳である。
・「ある一つの富について、少数の者がその全体を所有している場合より、
さらに多数の所有者の間で分配されるほうがより豊かになる、
などということが、どうしてあり得るのでしょうか」
・イタリアでは、他人が困っているのを見たら、頼まれるのを待たずに、すぐに助ける習慣がある。
○これいいな~。
・ベアトリーチェは、1290年に死去し、1300年の時点では、10年たっている。10は神を表す完全数。
・「同胞(はらから)よ、なぜあなたは勇気を出して、私と一緒に歩いている今、私にたずねようとしないのか」
・ベアトリーチェは、ここからダンテと対等の関係で話そうとする。そのため「同胞」つまり兄弟と呼び掛けている。
○中世だと、女性が、男性にこういう働きかけをすることは、どう捉えられたんだろう。星野之宣さんの漫画だと、ダンテとベアトリーチェはまさに語り合う相手として描かれている。
●「煉獄篇」を読み終えて
・ダンテの『神曲』の最も重要な主張は、「天国篇」にある。
・「地獄篇」の登場人物たちは、愛をめぐって道を誤った人々。
・煉獄、換言すれば地上。
・ポッカッチョこそは、1348年のペスト禍にあい、世界の崩壊の中で人々に精神的な救いを与えることができない無力な教会にかわり、世界を再び立ち上がらせるために、新たな人間観を打ち立てるべく、世界最初の小説の一つである『デカメロン』を著し、イタリアの散文の基本となった。
・地獄と化した地上を描いた傑作『デカメロン』
○これも凄いな~。文学が、世界を再び立ち上がらせる!物語の力ってことかな~。『デカメロン』読んでみよう。
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『神曲 天国篇』(2014)原 基晶(訳)講談社学術文庫
●「天国篇」を読む前に
●各歌解説
・神の叡智は、その光のあり方により説明される。
・ベアトリーチェが、神とダンテの仲介役となっている。
・ダンテやトマス・アクィナスに共通する、神の本質を「知性」とする理知的な世界観は、正統神学には引き継がれず、むしろ新プラトン主義のプラトンアカデミーに引き継がれた。
・神学の世界では、ドゥンス・スコトゥス以来、神の本質を「意志」とする宇宙観が支配的となった。
○おそらく言語化を重視するキリスト教に対して、日本人が多大な影響を受けている神道や仏教は、あえて「言語化しない」ことを大事にしているように思う。
・ダンテの使命は、天上のローマを人類に取り戻すために、神意を受けた預言としての書物『神曲』を著し、人類に正しい道を示すことである。
・ダンテの考える理想の都市の共同体は、家族の安心を基盤にした、互いに他人を信頼できる市民社会であり、それはキリスト者として、皇帝と理想を同じくして生きられる世界だった。
○「家族の安心を基盤にした、互いに他人を信頼できる市民社会」 これはいいよな~。比企ら辺もそうなれたら。
・文学者とは、政治家、官僚であった。知識人の自立という概念はない。
・ダンテは自分自身だけで「1人一党をなす」 これは詩人という概念の誕生を宣言。
・宇宙の構造を理解した後、小さな地球を冷ややかに眺め、その小さな世界の中で争う愚を笑うのだった。

・旧約を代表しているのが女性であり、救済の国である至高天にいる人々を生み出した母として位置づけられ、新訳を代表する人々は、人類の精神を指導する父と位置付けられる。
・その時に見たものを、ダンテは言葉の限界ゆえに表現することができず。
・ダンテに最初に見えたのは、全宇宙が一冊の書物。
○光瀬龍の『百億の昼と千億の夜』を、ふっと思い出した。また読んでみたい。
●各歌
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●あとがき
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