【木曜日22-8】「転移」文献

参考文献

【木曜日22-8】「転移」文献

○「転移」のルーツを辿る旅(1)

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「認知科学と学習科学における知識の転移」 白水始(2012)

・認知研究において、転移とは、ある状況で獲得した知識が後の状況での問題解決や学習につながる現象をさす。

・そのメカニズムとして、行動主義の立場から「先行学習と後続学習との間に、共通する要素が多くあるほど、転移が促進される」という同一要素説が提唱された。

・転移ほど定義が多様で、結果の出方も安定しない構成概念も珍しい(整理の一例として、Royer et al.2005)

・Thorndike ソーンダイク(1901)が、「転移 Transfer」という言葉を初めて認知研究に持ち込んだ。
・この語を彼とほぼ同時期に使ったのが、精神医学者のFreud フロイト(1905)である。フロイトは、心理治療において、クライエントがカウンセラーに肉親のイメージを重ねるなど、治療の妨げとなる既有体験の想起現象を「転移 Transference」と呼んだ。これは、目の前の事象に、先行経験が影響を与える transfer in にあたる。
・一方、ソーンダイクは、今の学びが将来の事象に影響する transfer out を指す用語として「転移」を用い、その成功条件を探った。

・教育研究の分野では、古くから「形式陶冶(とうや)」「実質陶冶(とうや)」という概念があった。

・転移研究を初めて組織的に行ったのは、ソーンダイク(1901)である。彼は、形式陶冶説に科学的根拠がないとして、転移は、転移課題Bの内容が、学習課題Aに含まれている場合に起きると主張した。「同一要素説」である。
・実験室での特殊な実験結果をもとに、人の転移能力を矮小化した点は否めない。

・Judd(1908)のように、転移は要素の類似性ではなく、のちの学習に適用できる一般原理を学ぶことによって起こるとする立場もあった。
・ジャッドやWertheimer(1959)は、形式陶冶説を支持したわけではないが、獲得された知識の適応可能性の広さを示して、認知主義的な転移研究の先鞭をつけた。

・認知心理学者が行った転移研究の内、最も著名なのが、Gick&Holyoak(1980)によるものだろう。彼らは、構造的な類似点を見出して問題を解決できるという主張をした。ベース(既知の経験)からターゲット(未知の課題)への転移(類推 analogyともよばれる)が生ずると考えた。

・対比事例(Contrasting cases)が、ヒントになり、転移が引き起こされる。

・転移とうい考え方自体を捨てることを主張したのが、状況論者のLave(1988)である。
・日常的認知研究からは、レイブが主張するように、学校から日常生活への数学知識やスキルの直接的な転移の証拠は認めがたく、むしろ職業上や生活の中の活動を通して、四則演算の仕方を学ぶことが示唆された。さらに、日常生活の問題解決は、そこがどのような場か、どのようなリソースがあるかと深く相互作用しながら行われることも示唆された。

・Engle(2006)は、認知要因だけでは、転移を説明できないとし、実験において、教師が文脈間の関連性を示唆していた事実に着目した。

・Lobato(2006、2008)は、参加者の視点から、学んだことを一般化しようとしたものもあるのではないかと、Actor-oriented transfer approachを提唱した。

・これまでの転移研究は、学習場面で得た知識だけで、転移課題ができるかを検討しており、それ以外の学習成果を評価し損なっていた恐れがある。Schwartz & Martin(2004)は、従来のパラダイムを「一重転移」と呼び、それに対して「二重転移」という新しいパラダイムを提案した。

・これからの転移研究のためには、各知識がどれだけ学習外の状況に持ち運べるか(可搬性 portability)、後から必要に応じて修正できるか(修正可能性 sustainability)、適用範囲を広げて新しい問題に活用できるか(活用性 dependability)で評価することが有望だと考えられる(三宅2012)

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「学習方略は教科間でいかに転移するか~教訓帰納の自発的な利用を促す事例研究から」 植阪友理(2010)

・指導された学習方略(例:教訓帰納)を、他の教科や内容の学習に活かすことは「方略の転移」と呼べる。
・本事例は、自発的な方略の転移という稀有な事象が生じた事例である。
・教科横断的な学習方略の指導は、これまで学校現場ではあまり行われてこなかった。

・類似的転移研究のレビューとして、Detterman(1993)を参照。

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「転移に関する臨床心理学的研究の展望の試み」山村・兒玉(2010)

・「過去の精神的な体験のすべては、医師という人間との現実的な関係として、ふたたび活動しはじめる」(Freud1905)という現象である転移 transferenceは、フロイトが、ドラの治療を行って以来、精神分析において重要な素材を生むと言われてきた(Greenson,1967)

・心理臨床家が、転移、逆転移の体験を避けて通ることができないのは明らかである(氏原2004)。

・1996~2008年の精神分析研究、心理臨床学研究をレビュー。

・現代心理療法における転移は、古典的転移、対人関係論的、間主観的転移と多様化している。したがって、転移の定義を明確にした調査が必要である。

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「転移学習のサーベイ」 神嶌(2009) 人工知能学会 第二種研究会

・転移学習 trasfer learning という語は、かなり幅広い機械学習の枠組みに対して使われており、統一された形式的定義を与える事は難しい。

・ある問題を効果的かつ効率的に解くために、別の関連した問題のデータや学習結果を再利用するのが、転移学習である。

・転移学習の考えは、1995年のNIPSのワークショップから、機械学習の一分野として認識されるようになった。

・転移学習の研究課題として、何を転移するのか(What to transfer)どのように転移するのか(How to transfer)いつ転移するのか(When to transfer)がある。

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Memory Transfer.  Byrne et al.(1966)

・学習した行動は、訓練されたねずみのRNAが含まれた脳の一部を、訓練されてないねずみに移植することで、転移されると説明されてきた。
・しかし、我々の実験では、そのような現象は見られなかった。

“Transfer of Learning” by injection of brain RNA: A replication. Gay & Raphelson (1967)

・Byrne et al.(1966)で疑問が提示されたRNAと記憶の直接的関係「記憶転移現象」は、我々の実験では支持された。

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「学習の転移に関する研究ノート~Bransford & Schwartzの将来の学習のための準備について」 山口悦司(2008)

・Thorndike(1901)は、同じ要素が含まれていれば転移は生ずるが、そうでなければ転移は生じないと結論した。この研究結果は、一時的には、形式陶冶説に立脚したカリキュラムに対しての疑義を向ける研究となった。

・Barnett & Ceci(2002)は、およそ100年にわたる学習の転移に関する論争、つまり結局のところ、転移は生じるのか生じないのかをめぐる議論が進展していない状況を指摘し、「内容(何が転移するか)」と「文脈(いつ、どこで転移するか)」とい2つの次元から転移研究を整理するための分類枠組みを提案している。

・Bransford & Schwartz(1999)によれば、転移に関する重要な研究成果の一つは、学習の転移を促進する学習経験の種類を明らかにしたことであるとされる。
・一方で、学習の転移はめったに生じないとする研究結果も数多く提供されている。その代表例として、Detterman & Sternberg(1993)がある。Dettermanは、Thorndikeの結論「転移はめったに生じない、転移が生じる見込みは、2つの状況間の類似性に直結している」を覆すような証拠は何一つ提示できてないと述べている。

・従来の研究は、転移の評価のために「隔離された問題解決」を含む課題を用いていた。
・Bransford & Schwartz(1999)は「将来の学習の為の準備」という新しい考え方を提案した。
・新しい経験から学び取るような準備を、大学においてできていたかが評価される。この評価は、同僚から指導を受ける事ができるなど、自らの学習を成功させるような学習環境を構築する能力を含むものである。

・「将来の学習の為の準備」に密接に関連するアイデアとして、Broudy(1977)による知識の種類に関する議論がある。
・Knowing that(複製できる知識)、Knowing how(応用できる知識)、Knowing with(連合や解釈によて生起する知識)

・将来の学習の為の準備の考え方にもとづけば、従来において「非効率」とされていた学習経験が再評価される。

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Rethinking Transfer: A simple proposal with multiple implications. Bransford & Schwartz (1999)

・Formal discipline 形式陶冶に関する議論は、ギリシャ時代にさかのぼる(Mann 1979)。

・すべての研究者が、Detterman(1993)ほど、転移に関して悲観的ではない。

・Broudy(1977)は、転移の証拠を見つけるのが難しいと述べている。それは転移が殆ど生じていないということではなく、我々の見方がその存在に気づけてないからであr。
・転移に関する新しい理論と測定が必要である。

・伝統的な転移研究では、SPS:Sequestered problem solving 隔離された問題解決において、知識のDA: Direct Application theory of transfer 直接適用を前提としている。
・我々は、別の視点として、PFL: Preparation for future learningを提唱したい。

・学習経験が、将来の学習の為のステージを設定してくれる。

・Contrasting cases 対比事例は、生涯の学習の為のより良い準備となる。

・Accomplished novice ある程度は達成しているが、自分はまだ初心者であると自覚している人

・活発な転移は、他者からのアイデアや視点を得ようとする本人の姿勢とも関係する。

・Bさんは、より効果的な学習者であるかもしれない。

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投稿者:関根雅泰

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