【木曜日46】「21世紀の職場での学習」

木曜日

【木曜日46】「21世紀の職場での学習」

○21年11月25日(木)立教大学院 中原研で担当した英語文献+α。

===

■文献名 (2014年)

Learning in the Twenty-First-Century Workplace 21世紀の職場での学習

■執筆者:

  Noe,R.A., Clarke,A.D.M., and Klein,H.J.

   Department of Management and Human Resources, The Ohio State University

■ジャーナル名:

  The Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior

■論文PDF:

https://www.annualreviews.org/doi/full/10.1146/annurev-orgpsych-031413-091321

■要約:

 ・個人、チーム、組織レベルでの学習に関する先行研究を、5つのテーマに分けてレビュー。

1)学習を違った観点で見る:公式研修、非公式学習、継続学習、ブレンド学習・・・

2)学習設計を再考する:ISDへの批判、SNS時代の社会的学習、Eラーニング・・・

3)職場での学習を促す:職場環境、社会的交流、個人の特性

4)学習結果を広げる:ミクロ/メゾ/マクロレベル、会計業績へのつながり、従業員ブランディング・・・

5)学習研究手法を向上させる:概念妥当性の検証、文化の違い、マルチレベル分析、縦断研究

■選んだ理由:

 ・Google Scholarを使い、「training review」で検索。

 ・2014年のレビュー論文で、2009年以降の研究を取り扱っているので、ここ最近10年ほどの研究動向が見える。

 ・著者の一人、Noe教授は、6刷を重ねる『Employee Training and Development』(2013)を執筆。

■内容

I. Introduction 導入

・Crook et al.(2011)のメタ分析[1]により、Human capital resources人的資本が、企業の業績に関係していることが示された。特に、企業特殊性の高い人的資本の場合、一般的な人的資本より、その関係が強固であった。

・Campbell et al.(2010)は、一般的な人的資本が、競争優位の源泉になり得ることを提示した。特にその資本が、価値があり、独特で、模倣困難で、代替不可の場合、その可能性が高まる。

 A. Goal and Scope of This Review 

・本レビューの目標は、組織が競合優位性を獲得するために、学習がいかに組織の戦略的人的資本の開発に貢献するかを理解することである。

・Aguinis & Kraiger(2009)、Brown & Sitzmann(2011)、Salas et al.(2012)のレビューを参考に、主に2009年以降の論文を扱っている。

II. Thinking Differently about Learning

・2012年に、アメリカの組織は、公式なTraining and development研修と開発に、$164.2billion 1642億ドルを使った(Miller 2013)。

・多忙さと業務量、予算削減、地理的に離れた職場の関係で、組織は公式なプログラムに従業員を参加させるのが難しくなっている。

・この困難を乗り越えるための方法の一つとして、組織が活用し始めているのが、Online deliveryオンライン運営である。2012年には、Technology-based learning ITを使った学習として、Eラーニング、オンライン学習、モバイル学習が、組織の公式な学習時間の39%を占めることとなった。

・公式な研修と開発の外で行われるContinuous learning継続的な学習こそが、人的資本の開発にはより重要である。

・継続的学習には、Informal learning非公式な学習、実践練習、機会学習、職場学習、自己啓発がある。

・組織内での学習における75%を、非公式な学習が占めるとも言われている(Bear et al.2008)。

・熟達者から初心者への知識移転の方法の一つとして、Knowledge sharing知識共有がある。知識共有は、直接の対面であったり、ITを使い資料化したりといった方法でなされる。

III. Reconsidering the Form and Design of Learning

・伝統的な学習の形態と設計において、従業員は受け身の存在として、組織が適切と考える知識やスキルを獲得し、仕事に転移させるものと考えられてきた。

・しかし、学習は、よりlearner controlled 学習者が制御し、Socially affected 社会的に影響を受け、naturally occurring in the workplace 職場で自然と発生するものとみられるようになった。

 A. Evolution of Learning Design

・instructional system design ISDは、実務家と研究者双方にとって、価値ある枠組みを提供してきた。

・しかし、ISDは、instructor-centered learning 講師主導の学習から、ITを使ったperson-centered learning 個人中心の学習への変化といった状況には合っていない点もある。

・例えば、active-learning modelアクティブラーニングの要素が組み込まれたthird generation learning第三世代の学習の設計と運営には、ISDだけだと足りない。

・学習は、より社会的に職場に埋め込まれ、学習者中心に行われ、ソーシャルメディアが活用されている。転移を促すための学習前の介入も行われる。これらは、ISDの枠組みだけではカバーしきれない。

・(以下、B~Hにおいて、最近の学習において重視されている概念や手法を紹介)

 B. Self-Regulation and Self-Directed Learning

・Self-regulated learning 自己調整学習は、期待される目標に向けて、計画、モニタリング、メタ認知、注意、継続、時間管理を行い、学習していくものだ。

・Self-directed learning 自己主導学習は、社会的学習の文脈や、オンライン、公式、非公式に起こり得る。自己主導学習については、数十年に渡り語られてきたが、逸話や事例研究が中心で、まだ分かっていないことも多い。

 C. Social Learning and Communities of Practice

・社会的学習は、観察、模倣、強化によって行われる(Bandura 1962)。

・社会的学習は有効だが、ソーシャルメディアの発達等、学習環境が変わる中で、再考が必要になっている。

・他者からの学習効果に関する最近の研究で注目されているのは、Evolutionary perspective進化視点である。Rundell et al.(2010)は、社会的学習のほうが、一人で試行錯誤する学習よりも効果が高かったことを明らかにした。学習はAdaptive process適応過程であり、それは他者の行動を観察して行った方がより効果的であったということだ。

・社会的学習は、実践共同体の文脈の中でも研究されてきた(Lave&Wenger 1991, Wenger1998)。

・専門領域での非公式な学習を促進することを目的に、実践共同体が使われてきた(Li et al.2009)。

・ただ、実践共同体の研究は、その理論的基盤の欠如を批判されている(Storberg-Walker 2008, Li et al.2009)。

・近年のKirkman et al.(2011)の研究では、Organizational Communities of Practice(OCop)が、組織レベルでの知識共有を通じて、人的資本の開発に重要な役割を果たしていることを提示した。

 D. E-learning: Gaming, Simulations, Massive Open Online Courses, and Social Media

・学習の運営と促進に、技術が使われることが普通になってきた。なぜなら、伝統的な対面学習手法は高価であり、地理的に離れた従業員に対して提供するのが難しいからである。

・Eラーニングは開発費はかかるが、対面の指導に比べ、移動費、宿泊費、講師代、従業員の機会損失といった全体的なコストに比べれば安くつく。

・ただし、Eラーニングだけでは、人的資本の開発にはつながりにくい。そこには、練習、フィードバック、意味あるコンテンツ、複数の感覚器官の活用、行動計画、フォローアップ、そして、マネジャーと組織の支援が必要になる。

・ゲームやシミュレーションを使ったオンライン、対面での学習も行われている(Castranova 2005、Malaby 2006)。

・コンピューターを使ったシミュレーションゲームをメタ分析したSitzmann(2011)は、学習者の自己効力感と知識は、シミュレーションゲームを使った方が、別の手段を用いたものよりも、高かったことを明らかにした。

・Twitter、Facebook、LinkedInを含むソーシャルメディアの中で育った個人は、その前の世代とは違った方法で学ぶだろう(Dabbagh &Kitsantas 2012)。

・Lewis et al.(2010)は、ソーシャルメディアが、社会的情報への個人の参加と他者との共有を可能にしたと述べている。

・Dabbagh &Kitsantas (2012)は、ソーシャルメディアと個人の学習環境の統合を果たすことで、自己調整学習をより促せる可能性を提示した。

・Massive Open Online Courses(MOOCs)は、「大衆へのIVYリーグの開放」と謳われた(Ripley 2012)。

・MOOCsの最も魅力的な特徴は、その柔軟な構造と、協働的な環境である。

・MOOCs以外のオンライン教育として、ALISON、Khan Academy、Coursera、Peer to Peer University、Udacity、Udemyがある。

・MOOCsの効果と影響に関する研究はまだ少ないが、10%未満から20%のコース修了率から、MOOCsの効果は限定的であるとする報告もある(Jordan 2013)。

 E. Instructor-Led Learning, Blended Learning, and the Role of the Instructor

・講師主導の研修が、現在最も使われている指導手法である(Miller 2013)。

・非公式、個人主導の学習と、公式の研修とのブレンドとして、対面で社会的交流がしやすい教室学習と、低コストで柔軟性があるオンライン学習の組み合わせがある(Bonk & Graham 2012)。

・しかし、ブレンド型に対しては、自己調整が出来ない受講者であったり、受動的な学習に興味が持てなかったりといった不安要素もある。

・Blended learningブレンド学習については、対面とオンラインの最適な組み合わせ、講師の役割、どの知識、スキル、コンピテンシーが、オンラインと対面のどちらで学ばれるべきなのかといった問いがある。

・個人によっては、自己主導型の学習が合う人もいる。例えば、自己効力感と、Loci of control内的統制が高い個人は、オンラインで、自己主導型の学習を好んだ(Beaudoin 2013、Sitzmann &Ely2011)。低い自己効力感と内的統制を持つ個人は、講師主導の教室型研修を好む可能性がある。

 F. Informal Learning

・Noe et al.(2013)は、Zest熱情が、Big Fiveと、自己効力感と共に、非公式学習を予測する項目であることを明らかにした。

・チームレベルでの非公式学習に影響を及ぼしていたのは、メンバーの「心理的安全性」に関する共有信念であった(Edmondson 1999,2002)。

・Van der Heijden et al.(2009)は、個人のEmployabilityが最も高いのは、組織に公式と非公式の学習が存在する場合であるとした。

 G. Experiential Learning

・経験学習は、暗黙知と形式知の双方を獲得するために有効である(Armstrong &Mahmud 2008他)。

・文脈化されたニュアンス学習も可能である(Moon 2004、Nonaka1994)。

・経験学習は、チームにとっても有効であり、高いレベルの創造性発揮にもつながる(Gino et al.2010)。

 H. Prelearning Interventions and Transfer of Training

・研修転移に関する多くの研究では、公式な学習経験の設計以外に、3つのエリアに着目している:個人の違い、組織風土と文化、特定の転移促進介入策[2]である。

・Blume et al.(2010)のメタ分析[3]では、認知能力(p=.37)粘り強さ(.28)モチベーション(.29)支援的な職場環境(.36)が転移と関係があることが明らかになった。

・After-action reviews(AARs)は、軍隊訓練で使われていたが、リーダーシップ開発にも使われるようになった。

・Villado &Arthur(2013)は、学生チームに対して、AARsを行った群と統制群を比較し、AARsの方が、チームパフォーマンス、チーム効力、オープンなコミュニケ―ションを高めたことを明らかにした。

IV. Facilitating Learning in the Workplace

・個人の違いと環境要因を分けて見るよりも、person-in-situation perspective状況内の個人という視点を用いることにより、見えてくることがある。多くの研究がこの視点を支持している(例:Gully & Chen 2010, Kraimer et al.2011)。

・以下に、職場環境、社会的交換、個人の違いの観点から、学習促進についてみていく。

 A. Work Environment

・近年のエビデンスを紹介したい。

  1. Culture/Climate

・複数の研究が、学習の促進と知識共有における、Supportive learning culture支援的な学習文化の重要性を提示している(例:Choi &Jacobs 2011、Yoon et al.2010)

・学習促進におけるPsychological safety心理的安全性の役割に着目した研究も増えている。(例:Noe et al.2010、Kostopoulos &Bozionelos 2011)。

・Work-family balanceに着目した研究は1つだけである。Rego &Cunha(2009)は、Work-family conciliation仕事-家庭 調停が低いと、学習と開発機会が、Well-being健康状態の向上につながらなかった。

  2. Teams

・Erhardt(2011)は、Team-based knowledge work(TBKW)のタイプ(4つ)を提示し、チームにおける知識労働のプロセスを示した。

・Fang et al.(2010)は、チームにおける探索と深化のトレードオフのメカニズムについて明らかにしようとした。

  3. Task Characteristics

・仕事がどのように設計されているのか、説明責任、自立性、挑戦余地等の業務の特徴が、学習促進に影響する。

・Liu &Fu(2011)は、自立性を促すチームの雰囲気、メンターの自立支援、プロティジェの自立志向が、プロティジェの学習に正の効果を示すことを明らかにした。

・Preenen et al.(2011)は、挑戦的なアサインメントは、離職意思と職探し行動に、負の効果を示した。更にそれらの関係は、仕事上の学習という変数を媒介していた。

  4. Job crafting

・従業員自身が、能動的に自分の仕事の形を、物理的、感情的、関係的、認知的観点から変えるジョブクラフティングは、学習を喚起する可能性がある。

・ジョブクラフティングに必要な資源を得るために、従業員は公式な研修や非公式な社会的交流から学習している(Daniels et al.2009,Tims &Bakker 2010)。

 B. Social Exchange

・従業員は、他者(例:同僚、メンター、上司、顧客)と交流することで学習する。

  1. Social networks

・近年の研究では、学習と研修転移は、社会ネットワークを通じて起こっていることが強調されている。

・Korte(2009)は、Relationship building関係構築が新規採用者にとっての社会化促進要因であり、その文脈は組織ではなく、職場集団であることを示した。

・Van den Bossche et al.(2010)は、研修転移は、受講者の社会ネットワークの紐帯の数と、正の関係があることを明らかにした。

・Larsson et al.(2011)は、Knowledge brokering知識ブローカー行動(例:多様な知識源をつなげる)が、非公式なリーダーが権威を増し、重要な情報に近づく機能であることを提示した。

  2. Development networks and mentoring

・これまでの研究から、メンタリング関係により学習が起こっていることは明らかになっている。

・近年は、メンタリング関係に、直接、間接に影響する要因への注目が集まっている。

・Pan et al.(2011)は、自己効力感が、上司とのメンタリングと個人の学習との関係に、交互作用を及ぼしている事を明らかにした。

・伝統的な二者間のメンタリングだけでなく、Developmental networks発達ネットワークによる支援も注目されている(例Dobrow et al. 2012)

  3. Supervisor support

・変革型リーダーシップや、LMXの理論を、非公式の学習や知識共有を理解するために活用した研究もある(例:Oweneel et al.2009、Zhang et al.2011)

  4. Trust and fairness

・心理的安全性を築くには、信頼が不可欠であり、それが、学習者のエンゲージメントにもつながる(Noe et al.2010)。

・Swift &Hwang(2013)は、情緒的信頼が、個人間の知識共有には重要で、認知的信頼が、組織学習環境を作る為に重要であることを示した。

 C. Individual Differences

・個人のTraits特徴、資質が、学習を促進している。

  1. Big Five traits and proactive personality

・Blume et al.(2010)のメタ分析では、Conscientiousness真面目さが、研修転移に中程度の効果量を示した(p=.28)[4]

・Fuller&Marler(2009)では、Proactive personality能動的な個人特性が、キャリアサクセスに影響していた。

  2. Goal orientation

・Wong et al.(2012)では、learning goal orientation学習ゴール志向が高い個人のほうが、経験をふり返り、そこから学ぶことが多いことを明らかにした。

・Hirst et al.(2009)は、創造性が、学習ゴール志向とチーム学習行動の相互作用が、創造性に関係することを提示した。

  3. Affect and emotion

・Daniels et al.(2009)は、Anxious affect不安な感情ではなく、Pleasant affect喜びの感情が、学習と関係していたことを明らかにした。

・Gondim & Mutti(2011)は、楽しさ、興奮、嬉しさ、誇りといった喜びの感情が、研修によって生じていたことを、Time samplingの手法を用いて明らかにした。

V. Expanding the Scope of Learning Outcomes

・個人や研修プログラムレベルのOutcome 結果だけでなく、組織レベルの結果についても見ていきたい。

 A. Multilevel Performance

  1. Cross-level perspective

・学習結果に関する研究では、ミクロ、グループ/チーム、マクロレベルの分析が行われてきた。

・人的資本の研究においてはは、ミクロの個人レベルの学習から、グループ/チーム、そしてマクロの組織レベルの関係を見たい。そのために、クロスレベル、または、Mesolevelメゾレベルの視点が必要になる。

・最近のStrategy research戦略研究においては、個人の知識、指向、信念が、firm performance企業業績に重要な影響をもたらしていることを提示している(例:Foss 2011, Mollick 2012)。

・組織心理学研究においても、ミクロとマクロレベルの現象を説明し、この相互作用がいかに競争優位に貢献するのかを、理論的に呈示していくことが必要になるだろう。

  2. Strategic learning and financial performance

・「研修のための研修」は今のビジネスの現状から許されない(Aguinis & Kraiger 2009)。

・学習が、組織のfinancial performance会計業績に、直接的に利益増大や費用削減で、影響を及ぼしたり、間接的に、生産性向上、イノベーション、モチベーション、維持、評判を通じて、影響を及ぼすこともある。

・例えば、Van Iddekinge et al.(2009)は、ファストフード組織において、研修が部署のパフォーマンスにどう影響したかを分析した。

・Tannenbaum(2002)のモデル[5]は、事業戦略と研修のつながりを考える上で参考になる。

  3. Creativity and innovation

・Lopez-Cabrales et al.(2009)は、協働的なHRM実践が、uniqueness of knowledge 知識の独自性を増すことを明らかにした。

・Sung & Choi(2012)は、Team knowledge stockではなく、Team knowledge utilizationチーム知識の活用が、創造性に正の関係を示し、それが、チームの会計業績を予測することを明らかにした。

 B. Employment Branding and Social Responsibility

・従業員ブランディングができることで、獲得したい人材を惹きつけ、維持することができる。

・組織は、学習施策と実践により、飛びぬけたイメージと評判を得ることができる。例えば、GEが、クロトンビルのマネジメント開発センターを通じて行う研修や教育に、$1billion 10億ドルを投資しているという評判は、人を惹きつける要因になる。

・CSRも、従業員と顧客にとって、組織のブランディングイメージを形作る重要な要素である。

・今後は、CSRに焦点をあてた開発プログラムの便益は何か、従業員をCSR活動に動機づけるために学習をどう位置付けるかといった研究が必要になるだろう(Aguinis & Glavas 2012)。

 C. Engagement

・複数の研究が、学習機会とWorking engagement仕事エンゲージメントの正の関係性を示している(例:Albrecht 2010、Bakker 2011)。

・学習とエンゲージメントの関係は、reciprocal 相互的であると考えられる。例えば、Bakker et al.(2012)では、エンゲージが高く、Big5の誠実さをもつ従業員ほど、新しい情報にオープンで、積極的な学習に参画する傾向が見られた。

 D. Well-Being

・人的資本の開発は、組織効果を上げると同時に、組織メンバーのWell-being健康も向上させる。

・人的資本への投資は、ストレス、不満、危険な職務環境に伴うhealth-careヘルスケア費用の低減につながる。

・しかし、従業員の成長と健康を、学習と開発の視点から見た研究はまだ少ない。それらの研究として、Thomas & Lankau(2009)、Rego & Cunha(2009)、Wilson et al.(2004)がある。

VII. Improving Methodology in Learning Research

・学習研究において、いくつかの手法課題がある。

・まず、Learning agility、Learner engagementといった概念の明確化、他の概念との違いを明示する必要がある。

・Human capital、Social capital、Informal learning、Continuous learning、Workplace learning、Deliberate practice、Self developmentといった概念も、範囲が広すぎたり、重なっている点があったりと、問題がある。

・次に、文化の違いを見る必要がある。現在の研究の多くは、USサンプルである。

・知識共有や非公式学習と言うアイデアは、文化をまたいで共通(etic)なのか、文化特有(emic)なのか(Conlon 2004)。

・3つ目に、マルチレベル分析の必要性である。特に、メゾレベルの研究が殆ど無い。

・今の研究の主流である、Cross-sectional design一時点での横断研究とSelf-report measure本人回答 以外の手法が必要である。研究者は、Common method variance共通方法バイアスを減らし、人的資本の開発には、時間をかけた変化が起こっていることを見る必要がある。その際に、例えば、Latent growth modeling(Ng&Feldman 2010)や、Propensity scoring(Connelly et al. 2013)が参考になるだろう。

VIII. Concluding Remarks

・ソーシャルメディアとブレンド学習に関する研究が、今の職場学習においては早急に求められるだろう。

・戦略の視点から、ミクロとマクロの研究を統合することが、今後の研究には求められる。

・そのためにも、新たな理論開発と、クロスレベルで、縦断的な実証研究が必要になるだろう。

 A. Summary points

・学習を、広く、戦略的な視点からとらえる必要がある。

・ISDモデルは、学習者中心に修正する必要がある。

・ソーシャルメディアの有効性を検証する必要がある。

・AARsは、学習と転移を促す設計要素である。

・組織レベルの結果、例えばマルチレベルパフォーマンス、従業員ブランディング、CSR、従業員エンゲージメント、健康が、競争優位を保つために必要である。

・プロアクティブ学習行動に関する概念(非公式学習、継続学習、自己主導型学習、自己啓発)は、妥当性の検証が必要。

・クロスレベルとメゾレベルでの分析が必要。

 B. Future issues

・個人とチーム学習がいかに組み合わさって、人的資本を作っていくのか?

・非公式学習の先行要因と結果は何か?

・学習におけるソーシャルメディアの役割は何か?

・MOOCsは、どれだけ効果的なのか?

・ITを使った学習者主導の手法(Eラーニング等)において、

状況(職務要求、ワークライフバランス、ソーシャルネットワーク)がいかに影響するのか?

・組織のビジネス戦略に対し、研修や学習が支援できることは何か?

・職務特性が、学習意志や行動にどう影響するのか、ジョブクラフティングの観点から考えられないか?

・クロスレベルとメゾレベルから、人的資本開発の研究ができないか?

■皆さんと意見交換したいこと

○研修参加者の学習を促すために、SNSを活用するとしたら?

↑組織外のミニ起業家に対しては、SNSでの発信を強く薦めている。それが、マーケティングや信頼構築につながるからだ。(および、リモート環境で、お互いの状況を把握しやすい) しかし、企業の従業員の場合は、SNSでの発信に制限がかかるだろう。外に向けて発信するからこそ、自分の行動の整理(内省)や、社外の方との情報交換(越境学習)につながる。それだけ、学習効果の高い手段と考えられるが、上手く活用できていないのではないか。企業内研修で、SNSを上手く活用できている事例はあるのか?

○オンライン(非同期型のEラーニングと、同期型のオンライン集合研修)と、オフライン(同期型の対面集合研修)

 オフラインが高価で貴重なものとなった今、どういうテーマの研修で、いつ、何の目的で、対面集合研修を行うか?(オンラインで済ませられないものは何か?)

↑事前学習や事後フォロー(参加者への質問に講師が動画で答え、LMSにアップロードする)に、Eラーニングは活用できる。対面集合ですべきは、他参加者との意見交換、練習(ロールプレイ)とフィードバック(される、する)ではないか。他に、できること、すべきことは?

以上


脚注:

[1]  Crook TR, Todd SY, Combs JG, Woehr DJ, Ketchen DJ Jr. 2011. Does human capital matter? A meta-analysis of the relationship between human capital and firm performance. J. Appl. Psychol. 96:443–56

・66の研究をメタ分析。
・Resource-based theory リソースベースド理論を基に、3つのmoderators 調整変数を抽出。
・Human capital 人的資本は、performance パフォーマンスに強く影響していた。
 特に、人的資本が外部労働市場で手に入りにくく、operational performance measures 作業業績指標が使われた場合に。
・経営層は、firm-specific 企業特殊の人的資本を増やし維持するために、プログラムに投資すべきである。

―――

・Newbert(2007)では、人的資本とパフォーマンスの関係を、7つの先行研究における33の試験から分析し、そのうちの11(33%)のみ、人的資本がパフォーマンスに影響していたと示した。しかし、あくまで7つの研究のみである。

・RBT(Barney 1986)は、企業の持続的優位性に、なぜ優れた人的資本が必要なのかを説明した。
・仮説1)人的資本は、業績に正の効果を示す

・Penrose(1959)は、人的資本の起業への影響に、path-dependent 経路依存性?があることを提示した。彼女は、タレントを開発するために時間が必要であることを示したのである。
・仮説2)横断研究よりも、縦断研究の方が、人的資本と業績の関係が強くでる

・人的資本の価値は、企業特殊性が高まるほど、あがる。
・仮説3)一般的な人的資本よりも、企業特殊な人的資本のほうが、人的資本と業績の関係が強い

・global measures of firm performance 企業業績のグローバル指標(例:ROA、Return on sales)は、人的資本の影響をとらえきれない可能性がある。
 Operational performance measures作業業績指標(例:顧客サービス満足度、イノベーション)の方が、人的資本の直接の影響を見やすい。
・仮説4)業績がグローバル指標ではなく、作業業績指標で測定された場合、人的資本と業績の関係が強くでる

・Barney(1991)のRBTが紹介された1991年からの先行研究において、66の研究をメタ分析した。
・結果として、仮説2)以外は支持された。
・1)人的資本は、業績に正の効果を示し、3)企業特殊な人的資本の方がより強く、4)作業業績に対して、人的資本の影響が強く出た。

・人的資本は、作業業績指標を介し、グローバル業績指標に影響する。

ーーー

●参考:中原先生のブログ記事「で、結局、人材開発への投資は「儲かる」のか?という「香ばしい問い」への答えとは!?

ーーー

[2] 転移促進介入策として、研修前の働きかけをメタ分析したレビュー論文が、

Mesmer-Magnus JR, Viswesvaran C. 2010. The role of pre-training interventions in learning: a meta-analysis and integrative review. Hum. Resour. Manag. Rev. 20:261–82

[3] Blume, Ford, Baldwin, and Huang (2010) Transfer of Training: A Meta Analytic Review.  https://www.learn-well.com/blog/2021/07/meta-analysis_210703.html 

・受講者の特徴だと、認知能力(.37)Conscientiousness誠実さ(.28) 自発的参加(.34)において、転移と中程度の関係が見られた。

・neuroticism神経症(.19) 研修前の自己効力感(.22) モチベーション(.23)が、小から中程度の転移との関係が見られた。

[4] Blume, Ford, Baldwin, and Huang (2010) Transfer of Training: A Meta Analytic Review.  https://www.learn-well.com/blog/2021/07/meta-analysis_210703.html 

[5] Tannenbaum SI. 2002. A strategic view of organizational training and learning.  In Creating, Implementing, and Managing Effective Training and Development, ed. K Kraiger, pp. 10–52. San Francisco: Jossey-Bass 

[6] ついでに、レビュー論文 もう1本!

Salas,E. & Cannon-Bowers,J.A.(2001) The Science of Training: A Decade of Progress.

・1990年代、研修活動に対して、組織は、$55.3 billion から、$200 billion を年間に投資している(Bassi &Van Buren 1999, McKenna 1990)。

・1971年に、最初のレビュー論文(Campbell 1971)が出て、30年たつ。

・これまで、5本のレビュー論文が、Annual Review of Psychologyからは出ている(Campbell 1971, Goldstein 1980, Wexley 1984, Latham 1988, Tannenbaum & Yukl 1992)。
・このレビュー論文では、1992年から、2000年1月までの研究を中心に取り上げる。

・研修の科学は、進歩し成熟した。以前批判されたような、理論が無いといったことはない。

・Tannenbaum et al.(1993)は、研修設計と運営に関する総合的な枠組みを提供した。
・Kozlowski et al.(2000)は、組織システム要因に着目した。

1)Training needs analysis 研修ニーズ分析

・研修ニーズ分析が行われるようになったことが、最も重要なステップの一つだ。
・誰に、何を研修すべきかを明確にするプロセスだ。
・ただ、まだ科学と言うより、アートの分野にとどまっている。

2)Antecedent training conditions 研修前の状況

・先行研究の結果から、認知能力が高い人ほど、研修でよく学習するとは言ってよいだろう。
・ただ、認知能力が、仕事上のパフォーマンスを規定するわけではない。

・自己効力感に関する結果は、先行研究の中で一貫性がある。自己効力感は、より良い学習とパフォーマンスをもたらす。
・自己効力感が、パフォーマンスを予測する強い要因だという結果は、多くの研究で繰り返し現れる。(例:Cole & Latham 1997他)
・チームにおける集合的効力感とチームパフォーマンスの関係はまだ明らかになっていない。

・受講者の研修に対する以前の経験(例:否定的な経験)が、次の研修での学習と維持に影響している(Smith-Jentsch et al.1996)。

3)Training methods and instructional strategies 研修手法と指導戦略

・有効な戦略の4つの原則
 1)関連性ある内容
 2)学ぶべきKSAの例示
 3)スキルを練習する機会の提供
 4)練習中と練習後のフィードバックの提供

・シミュレーションは、軍隊や航空産業で多用されている。
・複雑な課題の研修に、ゲームはあっている(例:Gopher 1994)
・シミュレーションがなぜ効果的なのかはまだ明らかになってない。

・チーム研修での効果について、徐々にエビデンスが提供され始めた(例:Helmreich et al.1993)。

4)Post-training conditions 研修後の状況

・Kirkpatrick(1976)は最も使われている枠組みだが、よりリッチで高度なタイポロジーが必要だろう。
・今後は、オンラインでの測定が必要になってくる。

・研修評価は、労働集約型で、費用も掛かり、政治的な動きが必要になる。しかも悪い知らせを伝える可能性もある。
・チーム研修に関する評価では、その全て(例:Leedom & Simon 1995他)が、研修に効果はあったとしている。
 しかし、研修が効果を示さなかったものもあるだろうから、そこに着目することも必要になる。

・Vertical transfer of training 縦の研修転移が、今後のフロンティアだ。個人の学習結果が、いかに組織効果につながるのか(Kozlowski et al.2000)。

5)結び

・Kraiger et al.(1993)による分類:

 Training effectiveness は、なぜ研修が有効だったのか、マクロなシステムの視点で見る。
 Training evaluation は、研修の何が有効だったのか、ミクロな視点で見る。
 
・組織は、研修投資へのリターンを知りたがっている。
・実務家は、科学的な研修の原則やガイドラインを、先行研究から学ぶ必要がある。

===

●ゼミでの意見交換 (差しさわり無い範囲で抜粋)

・行ってみたい!会いたい!と思わないと、来てくれない。尖ってないと。そこに行かないと学べない。

・学生同士の関係構築は、対面の方が良い。事前のミーティング等は、オンラインでやっているが。

・インプットは、オンラインで出来る。ふり返りは、ひざを交えて、熱量を感じながら出来る対面の方が良い。

・フルオンラインに慣れていると、対面でのグループワークを非効率に感じる学生もいる。脱線、偶発的な学習は、オンラインでは起こりにくい。

===

投稿者:関根雅泰

コメントフォーム

ページトップに戻る