【木曜日40】研修評価本(9)

木曜日

【木曜日40】研修評価本(9)

○RCTやメタ分析に基づく教育の効果測定に関する本。

===

『教育の効果: メタ分析による学力に影響を与える要因の効果の可視化』ジョン・ハッティ(著)山森光陽(翻訳)(2018)図書文化社

●監訳者解説

・効果量d=0.40を基準値。
・0.40で小、0.70で中、1.00で大。

・エビデンスの利用に積極的な医療の分野では、ランダム化比較試験(RCT)によって得られた複数の知見をメタ分析したものが、最もレベルの高いエビデンスであると考えられている。

●本文

・1976年に、Gene Glassがメタ分析とい考え方を公表。

・Cohen(1988)は、効果量d=1.00というのは、歴然たる誰の目にも明らかな違いがあると解釈可能な大きな差であると主張。
・本書の結果を踏まえると、教育効果の解釈においては、d=0.2を小、d=0.4を中、d=0.6を大とした方が良いと考えられる。

・本書では、800を超えるメタ分析の結果を統合し、学力に大きな影響を与える、また与えない要因とは何かを検討するための包括的な観点を提示する。

・効果量が、d=0.15を下回るものは、ためにならない可能性があり、大方の場合は、実施しない方がよいものであると見なすことができる。

・本書で扱う統合的分析結果の多くが含意している明快な教訓は「見通しが立つ指導と学習」の必要である。

・浅い理解と深い理解がバランスよくなされ、知識や現実世界についての妥当な枠組みがよりよく構成されること(第3段階)につながるようにすることが、教育の目標でなければならない。
・学習過程というのは、知識から理解へ、理解から構成へと続く長い道のりなのである。

・本書の主張は、学習に違いをもたらすのは教師である、ということである。

・過去の学力は、強力な予測要因の一つである。
・学力との関係が最も強いのは、自己効力感である。
・母親の就労が、子供の学力に及ぼす影響は全くない。
・家庭における保護者の信念や期待こそが、子供が学力を身に着ける上で重要なのである。

・学校内分散が大きいということは、効果的な教師もいれば、そうでない教師もいるということを意味しているのである。

・教師は、次のような考えをもって教室に入らなければならない。すなわち、教師とは変化を起こすものであるという職業観である。すべての学習者は学ぶことができ、伸びることができるという学習者観と、学力は固定的なものではなく変えられるものであるという能力観である。

・重要なのは、目標が具体的かどうかということではなく、難易度である。
・自己ベストを出すという目標は、習得目標と遂行目標の良い面を組み合わせたようなもの。

・先行オーガナイザーや概念地図法は、認知負荷の軽減にもつながるために、効果が高いと考えられる。

・学力に対して大きな影響を与えるフィードバックとは、学習者から教師に与えられるもの。
・教師が学習者からフィードバックを受け取ることが、見通しの立つ学習の実現につながるのである。
・フィードバックとは、学習者に関わりを持つ人、ものから与えられる学習者の到達状況や理解の程度に関する情報である。

・教師に与えられるフィードバックの効果は大きい。指導改善のための形成的評価の実施の効果量は大きい。d=0.90。

・学習スタイルは、ある程度は重要。d=0.41。ただし、主張のほとんどは、商業目的。

・学習者に、要約、質問、明確化、予測を身につけさせる相互教授法の効果量d=0.74。

・遠隔教育と対面授業の効果は、同程度。d=0.15。

・複数の日に分けて学習するような分散練習をすることで、かなりの長期間にわたってより多くの学習内容が保持される。Cepeda et al.(2006)によるメタ分析の結果。

・研究でとらえられる因果関係には限界があり、研究対象としたもの以外の変数(第3の変数)の影響を常に考慮する必要がある。

・学習者の学力に与える影響は、d=0.40を超えることを目指さなければならない。

・教育の基本目的は、介入することであり、行動を変化させることであると、筆者は主張したい。だからこそ、教師の仕事とは倫理観が必要なのである。
・教えることとは、何らかの形で人を変えるという使命を帯びたものである。

・直接教授法を否定し、ロシアの影響を受けた方法(発見型学習?)を支持することは、エビデンスの軽視である。

===

『「学力」の経済学』中室牧子(2015)ディスカバー・トゥエンティワン

・教育の効果は、数値化が可能になってきている。

・経済学は「社会科学の女王」と呼ばれ、「科学」たろうとしてきた歴史を持つ。

・教育生産関数:インプット(家庭・学校の資源) → 生産関数 → アウトプット(学力)

・ご褒美は、アウトプット(テストの点数)ではなく、インプット(本を読む等)に与えるべき。
・「勉強するようにいう」ことの効果はない。

・人的資本への投資は、子供が小さいうちに行うべき。
・学校は、学力に加えて、非認知能力(自制心、やり抜く力、勤勉性)を培う場。

・教員研修が、教員の質に与える因果効果はないという結論が優勢。
・教員免許の有無による教員の質の差はかなり小さい。
・教員免許制度を変更し、能力の高い人が教員になることへの参入障壁を低くすることは有力な政策オプション。

・教育にエビデンスを。

・RCTの問題点:
 1)政策介入に反応して行動してしまう可能性
 2)外部妥当性
 3)メカニズム(内部構造)「なぜそうなったか」が分からない

・RCT ランダム化比較試験は、教育政策の因果関係を定量的に明らかにするために、経済学者が駆使しうる最大の武器。

===

『統計学が最強の学問である』西内 啓 (2013)ダイヤモンド社

・現代統計学の父 R.A.フィッシャー

・サンプリングにより、最小十分なデータで、判断を。全データで解析を行う必要はない。
・十分なデータで、適切な比較を行う。

・クロス集計表において「意味のある偏り」なのか、それとも「誤差でもこのぐらいの差は生じるのか」を確かめるのが「カイ二乗検定」
・カイ二乗検定によって得られた「p値」が小さければ(5%以下)「この結果は、偶然得られたとは考えにくい」と判断する。

・既存データから、何らかの誤差とは考えられない偏りを発見すれば、それは貴重な示唆に富む仮説となる。

・研修の対象となる従業員をランダムに半分に分け、片方に研修を受けさせる一方、もう片方は通常業務に従事させる。研修直後や1年間の数値(営業成績や勤務評定など)を比較すればよい。

○このやり方だと、研修以外の影響(第3の変数)は見れないのでは?仮に1年間の数値を追ったとしたら、研修以外の要因(担当顧客、市場環境、上司の支援)の方が、影響が大きそう。研修直後だと、営業成績や勤務評定が、いきなりは変化しないだろうから、それにつながりそうな他の変数を設定し、その違い(実験群と統制群)を比較することはできそう。

・安価な媒体で、小規模なRCTを行った方が、早く、安く、確実な答えを得られる可能性が高い。

・ランダム化の3つの壁:現実、倫理、感情。

・一方のデータから、他方のデータを予測する数式を推定するのが、回帰分析。

・関連性を分析する手法の殆どが、回帰分析。

・シンプルに「何が最も結果変数に違いを生むのか」が分かってこその統計学。

・統計学の目的は、帰納的推論。計量経済学は、演繹的にあてはまりの良いモデルを作ろうとする。

・「最善の答え」は公開されている。

===

投稿者:関根雅泰

コメントフォーム

ページトップに戻る