『インストラクショナルデザインとテクノロジ:教える技術の動向と課題』

お薦めの本

『インストラクショナルデザインとテクノロジ:教える技術の動向と課題』
 リーサー&デンプシー(編)2013年

○IDや学習理論だけでなく「専門家としてどう食べていくのか」
 といった泥臭い話もあって面白い。

(・引用 ○関根の独り言)
===
●第1部 領域を定義する
・シルバーン(1965)モデルや初期のIDモデルは、ほぼ全部、
 行動主義を基盤としていた。
・最も人気があり、影響力のあるIDモデルの一つは、
 ディックら(2005)のものである。
・モレンダ(2008)によると、ADDIEという名称は、専門用語として
 形式化されたものではなく、口頭伝承を通じて、非公式に作りださ
 れていったものである。
・戦争中に使用した訓練映画やスライド教材は訓練の道具として
 非常に効果的であった(Saettler 1990)
・1960年代半ばまでには、教育目的でのテレビ使用への関心は
 弱まっていた。
・IDプロセスの起源は、第2次世界大戦にさかのぼる(Dick 1987)
 ガニェ、ブリッグ、フラナガンといった研究者が軍事用訓練教材
 を開発するために召集された。
・ガニェが、学習成果の5つの領域と9教授事象を『学習の条件』で
 提示した(Gagne 1965)
●第2部 学習と教授の理論とモデル
・「学習者の経験と外的世界との交わり」の結果として学習が生まれる
・行動主義理論や情報処理理論とは異なり、状況的学習理論は、個人の
 心理学よりも、社会的・文化的な要因によって学習が決定されるとする
・構成主義的なアプローチでは、学習は中から外へ向かっていくものである。
 学習者は、能動的に取り巻く環境を体系化し意味づけようと試み、その
 プロセスの中で知識を構築していく。
・初心者から中級の学習者を対象にしたインストラクションでは、構成的主義
 に基づいた最小限の指導よりも、直接的で強い教育的指導のほうが、より
 効果的であることがほぼ一様に示されている(Kirschnerら2006)
・構成主義(Constructivism)では、学習を構築のプロセスとして、何かを
 作りりだすプロセスとして見ている。
・構成主義に関連する教授モデル:
 -PBL 問題解決型学習
 -アンカード・インストラクション
 -認知的徒弟制度
 -意図的な学習環境
 -REAL
・構成主義的な学習指針に従うことは可能ではあるが、だからといってそれが
 成功するインストラクションになるとは限らない
・シャンクは、一般的に学習科学Learning sciencesという言葉を使い始めた
 最初の人物として知られている。
・1980年代とその後における学習科学の知見は、構成主義の新たな視点の
 下での教え方の理解と深く関係している。
 学習科学の強固な原則の一つは、教示主義instructionistに基づいた
 直接的な情報伝達を用いずとも、支援的な学習環境は構築できるという
 ものだろう。
 学習科学において教示主義的でない教え方を説明する際に用いる主な比喩は
 「足場がけ scaffolding」である。
・学習は、真正性、関連性の観点から、問題に基づくべきである。
・現在の教育と研修のパラダイムは、工業時代に発展してきた。
 工業時代に必要とされたのは、学習者を序列化(Sort)する教育システム
 であった。
 このことが、学校が基準準拠評価ではなく、集団準拠評価の制度を用いて
 きた理由である。
・脱工業社会における教育パラダイムにおいては、「壇上の聖人」から
 「側にいる案内人」へ、教師の役割は変化してきた。
 案内人でいるためには、3つの主要な役割がある:
 1)学習者の作業のデザイナー 2)学習プロセスのファシリテーター
 3)面倒見のよいメンター
・HPT分野のほとんどの研究者は、パフォーマンスに影響する要因を3つに
 分類している:能力、機会、意欲。
・ケラー(2010)学習意欲の5つの原理:
 1)ギャップの知覚 2)ゴールに関連 3)成功できる
 4)満足な結果 5)自己調整
●第3部 教育プログラム・プロジェクトの評価と管理
・カークパトリック(1959)は、研修に特化した評価モデルを開発した。
 最初は4つの手順として表現していたものが、のちに4レベル評価となった。
・研修評価で使用される研究計画法:
 1)1グループ事後テストのみ(とても弱い)
 2)1グループ事前・事後テスト(やや弱い)
 3)同等でない比較グループ(やや強い)
 4)統制群つき事前・事後テスト(とても強い)
・研修の転移に影響を与える5つの環境(Kirkpatrick 2006):
 1)阻害的 2)非協力的 3)中立的 4)奨励的 5)要求的
・レベル3の評価は、レベル1,2の評価よりも行うのが難しいが、もし
 学習の転移が行われなければ、研修を実施する本来の目的であったレベル4
 の成果を得ることは望めない。
・カークパトリックは、研修とレベル4の成果の関係を実証することの難しさ
 を認めている。研修以外のたくさんの外部要素もレベル4の成果に影響を
 及ぼす可能性があるため、強固な研究計画法が求められる。
・ブリンカーホフの「成功事例法 success case method」は、
 特異グループ解析法、事例研究法、ストーリーテリング手法とを一体化した
 迅速で簡単なプロセスであり、成功事例を調査し、失敗事例と比較するもの
 である。
・プロジェクトマネジメントで最も重要なスキルは、チームを指揮し動機づけ
 る対人スキルである。
・リソースが不足することは、すべての研修組織内の事実である。
 豊富さよりも、希少であることを重視する。
●第4部 パフォーマンスの向上
・パフォーマンスは、行動の成果である。
 成果とは、システムによって高く評価された達成、すなわち業績であり、
 それらが、HPIの中核である。
 パフォーマンスとは、コストがかかる行動によって引き出される価値ある
 達成である。
・ギルバートは、1970年代半ばまでに、行動エンジニアリングモデルを
 構築し、HPTの父とよばれている。
・パフォーマンス支援の目標は「研修をほとんどまたは全く受けていない
 状態で、初日から熟達者並のパフォーマンスを出すこと」である。
 パフォーマンス支援とは、「パフォーマーが必要な時に、様々なレベルで
 情報やツールにアクセスできるシステム」である。
・研修専門家がナレッジマネジメントを考慮すべき理由:
 業務中に利用する知識リソースを(ツールや文書)を研修中にも利用させる
 ことにより、研修の真正性(authenticity)が高まる。
・インフォーマル学習は、フォーマルな研修への依存性を弱め、講師がいる
 教室に依存せず、仕事や生活に上手く取り入れられているプログラムや
 人々への信頼を高める点で魅力的である。
●第5部 多様な場面での動向と課題
・米国単独でも、研修産業は、1999年の625億ドルから成長して、2007年には
 1343億9千万ドルを達成した(Paradise, 2008)
 この約1350億ドルの研修費用のおよそ40%は、外部のインストラクショナル
 デザイナ(すなわちコンサルタント)に支払われていた。
○ということは、米国では約13兆円市場(計算が間違ってなければ)
 日本の研修産業は、たしか約5千億円。1兆円いってない。
・経済と産業がグローバルに拡大し続けると同時に、社員研修の需要も増加。
・IDが最も普及している活用分野は、企業環境である。
・IDの実践の主要な活動領域のうちの一つは、民間部門にある。
 1980年代以来、経済産業分野と軍隊での研修の安定成長が見られた。
・軍隊で働くIDには「効果のない教育は、悲惨な結果をもたらす可能性が
 ある」という認識が必要。
●第6部 IDTの世界的動向と課題
・学習は重要な側面ではあるが、唯一の側面ではないことが多い。
・日本国内の大企業においては、長年、教育研修部門が存在してきたが、
 今日に至るまで、研修の質やROIへの関心はあまり寄せられてこなかった。
 人材開発においては、従業員個人の成長ではなく、単に生産性を重視。
 研修への期待は、従業員をリフレッシュさせることにあった。
・ブルーナーは、誰にでも、いつでも何でも教えることができると主張。
・集団ヒステリーによる最悪の結果の記憶が残る国(ドイツ)においては、
 毎日スタッフに対し、心得の復唱を強いたことが、深い不快感につながった
 に違いない(ウォルマートの失敗)
・研修以外の方法を想定
○解決策を、研修に設定する際は、他責に気を付けないと。
 「できないのは、従業員が悪い。だから、研修する」みたいな。
●第7部 IDTで職を得て成功するために
・独立したコンサルタントとして働くことには、利点と欠点がある。
●第8部 IDTにおける新しい方向性
・構成主義に一つの真に優れた点があるとしたら、それは学習課題を共有して
 作成していくことであろう。
・現在の技術には、学習者が情報を吸収するためにもつ心理的能力を超えた
 レベルで、学習者に対して情報を配信する能力がある。
 これがリッチメディアのパラドックスである。
・無意味な処理をいかに減らすかが教育設計上の重要なゴールとなる。
・熟達度逆転とは、初心者に有益な教授モードや方法が、エキスパートの支援
 にはならず、場合によってはエキスパートの職務遂行を低下させることを
 指す。
・学習スタイルの理論とは反対に、人は3つすべての感覚モードを使って
 効果的に学習している。
 
 学習者の学習スタイルに合わせて授業を設計することを強く後押しする
 ような証拠はないのである。
・あるシステムがどのように働くかについての学習は、提示する資料を
 より少なくすることによって改善されえる(Mayer, 2009) Less is More
・より単純な(Leaner)メディアが、学習により高い効果をもたらしうる。
●第9部 IDTの現在における課題
・認知の障害には、学習障害、自閉症、外傷性脳損傷、脳性麻痺、てんかん、
 神経的障害、または精神疾患などが含まれる。
・インストラクショナルデザイナは、教材の設計者であるが、経験の設計者
 でもある。
・IDは科学ではない。また正当性を維持するために科学として位置付ける
 必要もない。
・最小限からある程度までのガイダンスを与えることは、次のような多くの
 人気が高いIDアプローチに特徴的である。すなわち構成主義、実践共同体、
 協調学習、足場がけなどである。
 今世紀におけるその原点は、おそらくブルーナー(1961)にまで遡る。
 これまでのレビューや評価研究の証拠を見ると、最小限からある程度の
 ガイダンスに留める方法は完全指導型教育と比べて、それほど効果的でも
 効率的でもないことが示されている。
・全ての年齢、課題と文脈で、発見学習には不利で、完全指導型教育を支持
 する一貫性のある証拠があることを示した(Mayer, 2004)
・科学的根拠に基づいたIDモデルに共通する特性を記述した際に、最も
 効果的なモデルは完全指導型教育を推奨している(Merrill, 2002,2006)
・最小限のガイダンスの使用が推奨されてから半世紀がたったが、この手法を
 支持する研究は存在しないように思われる。
 初心者から中級レベルのインストラクションでは、最小限のガイダンスを
 含む構成主義に基づくアプローチよりも、しっかりと直接的なガイダンス
 を行うほうがより効果的であるという結果がほぼ一様に得られている。
 (Kirschnerら2006)
・学習課題に特有の事前知識が高いレベルにあり、より高い一般能力を持つ
 ような小数の学習者は、完全指導型教育からの恩恵をそれほど受けない傾向
 にある。
○ここ面白いなー。初心者~中級者にはティーチング的な教示主義。
 上級者にはコーチング的な構成主義といった感じなのかな。
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投稿者:関根雅泰

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