「知識経営実践論」 

お薦めの本

「知識経営実践論」 
  妹尾 大 (著), 野中 郁次郎 (著), 阿久津 聡 (著)

○伝統的な経営学の切り口とは違う「知識経営」という概念を用いて
 企業事例を分析。「マエカワ」「ドコモ」の事例が特に面白い。

・2001年
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●序章
・知識経営の本質は、新知識の創造である。
・ナレッジマネジメントは、既存知識の共有ないし再利用ばかりを強調している
 ように見える。
・共有はあくまでも創造の前提であって、目的ではない。
・知識創造理論の中心をなすSECI(セキ)プロセスの背後には、
 哲学的方法論がある。
・組織の課題を「知識経営」という考え方を用いることで解決したいと考えて
 いる人々に思考の材料を提供することを主たる目的とした事例集が本書。
・価値創造の源泉は知識にある。
・知識創造理論の骨格をなす3つの要素
 1)暗黙知と形式知の相互変換作用を表現する「SECIプロセス」
 2)知識創造(意味創出)を可能とする文脈としての「場」
 3)SECIプロセスの材料ともなり成果ともなる「知識資産」
・知識創造プロセスの推進力となった活動や要因を「ナレッジイニシアティブ」
 と呼ぶ。
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●1章 連続的な自己革新
◎セブンイレブンジャパン「変化への対応と基本の徹底」
・7-11の高収益を支えているのは「変化への対応」「基本の徹底」という
 二本柱の基本理念。
・徹底したアウトソーシング、組織は極限までスリム化
・商品企画部に「ブラブラ社員」と呼ばれる「1日中好き勝手に過ごしてよい」
 自由な社員がいる。
 ブラブラ社員には、まだ7-11のシステムになじんでいない男女2名ずつの
 新卒社員が選ばれている。
 彼らは会社組織に飲み込まれておらず、年齢的にもターゲット顧客に近い。
○これ面白いなー。「ブラブラ社員」
 組織社会化される前の貴重な時期を活かす。あえて組織社会化を遅らせる。
・会議にこだわるのは、時間と空間を共有しなければ伝わらない情報があるから。
・消費者と接することが重要と考える7-11では、新入社員をすぐに本社の
 部門に配属することはせず、最低でも2年間はOFCを経験させる。
・7-11では毎日がOJTのくり返しである。成文化されたマニュアル類など
 は一切無いという。毎日が変化へのキャッチアップ。
◎花王「TCRによる継続的自己革新」
・「オモチャ箱方式」全社の業務を一度ひっくり返して、本当に必要なものだけ
 箱に戻す。
・TCRを通じて人材の多機能化を図り、また業務の見直しによって優秀な人材を
 余剰資源化して、新規事業や国際展開に投入することが大きな目的。
・花王の変革活動は、15年間以上もマンネリ化することもなく、継続、維持され
 さらに進化、飛躍し続けている。
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●2章 知識創造理論の実践
◎エーザイ「hhc活動と知創部の設置」
・O病院の院長は、自分の親を安心して預けることのできる病院を目指し、
 どうしたら親が安心し喜ぶだろうかということを判断基準とした。
・O病院での病棟実習において、頭で理解した理念が、現実さの重さを伴って
 実感されてくる。
・薬は単なる道具
・参加者の大部分が患者に直接接したことによって、単に物理的に介護体験を
 して現場を知ったということに留まらず、介護をしているスタッフの働きぶり
 にも触発され、自らの仕事のあり方、ひいては自分の人生そのものに対して
 深く考える機会を得ている。
・後輩の指導育成に関しては、それまでのベテランが新人の担当エリアに同行
 するというスタイルに加え、新人がベテランの担当エリアに同行するという
 スタイルのOJTを導入した。
・サーベイの結果、業績の高い組織は共同化、表出化、連結化が優位に高く、
 リーダーシップ、知識の組み合わせ能力も高いといういうことが分かった。
 つまり知識創造活動を積極的に行っているところは高い実績を出している
 ことがデータによって証明された。
・実際に医薬品が使用される現場である病棟に入り込んで、介護を体験すると
 いう研修プログラムは、世界でも類をみない試みであった。
○研修内での強烈な体験。それが意識、行動を変える。
◎NTT東日本「知識創造オフィスの構築」
・educate に最もふさわしい訳語は「開智」
・組織内のイントラネットに個人ホームページの作成を指示。
 企業の中で個人が見える仕組みを作りたかった。
○これ面白いなー。確かに個人ホームページがあれば、
 日報もそこで作れるし、個人の色々な側面を出させることができるかも。
・観葉植物を「動くパーティション」として使用。
・座席をフリーにすると、誰が隣に座るか分からないので、色々な人と出会う
 ことができる。「予期せぬ遭遇」を創りだせる。
○フリーアドレス制で、本当に座席は固定化しないのかな。
 やっぱり自分にとってなじみのある席に座りたがるし、
 それを知っている周囲もその席に座ることを遠慮するかも。
・大画面モニターに映し出された資料は、その場で修正することができるため
 暗黙知の共有から形式知の結合までの知識創造プロセスを一気に行える。
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●3章 製品開発の仕組みづくり
 
◎トヨタ「全社的取り組みとしてのプリウス開発」
・主要な要素技術は内製する方針をトヨタはとってきた。
 「メーカー」ではなく「アセンブラー」になってしまうという不安から。
・「バックアップ案を作らない」という開発手法。
・これまでのトヨタでは起こり得なかった「全社的な場」の形成が大きい。
・場の活性は、トップによる「カオスの発生」と担当者による「情報共有の促進」
 によって行われた。
・部門を超えたネットワークが構築されたことによって、信頼の輪が拡大した。
○ 信頼の輪=ソーシャルキャピタル といえるかな。
◎ソニー「知識資産とバイオ開発」
・トップがデザインの重要性を十分に認識している。
・他のPCメーカーはスペックから入ったが、バイオは色や手触りなとから
 入っている。
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●4章 顧客との共創
◎良品計画「生活者視点からの商品作り」
・良品計画の強みは商品の企画から販売までをマネジメントしていることと
 そのレスポンスの速さにある。
・優秀な店長候補は小売業界全体で不足している。
・商品企画、開発を消費者を巻き込んだ形で行っている。
 
◎前川製作所「顧客との共創の場作り」
・マエカワでは、独立法人経営という独自の経営スタイルをとっている。
・自分たちが中心になって稼がなければ誰も助けてくれないという危機感や、
 事業に失敗すればつぶれるかもしれないという恐怖感は、必然的に
 当事者意識を醸成した。
・業界に合わせたモノづくりの体制を真剣に考えるしかなかった。
・マエカワはタカキにパン作りの全行程を教えてほしいと依頼した。
○p307の質問 顧客を理解するのに役立つ。
○この事例は、ストーリー性があり、読んでいて楽しかった。
 アップダウンが大事なのかも。
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●5章 新事業の創出
◎NTTドコモ「iモードサービスの開発と事業化」
・1996年「ボリュームからバリューへ」
・榎から「中途半端な関わりではなく、やって頂くんだったらフルコミット
 してほしい」と言われたことが、松永真理を動かした。
 夏野剛は、ウォレットPCのアイデアをもっていた。
・ものは名前をもって生き始める。
○この事例も面白い。読みながら鳥肌がたった。ドラマがある。
 人が生き生きと表現されているからかな。
・他の企業やユーザーが参加できるように知識創造プロセスを開放しておくこと
 によって、単独企業ではなしえなかったような大きな知識創造プロセスが
 実現された。
○最近の本、平野氏の「プラットフォーム戦略」でもドコモの事例は扱われている。
◎セコム「綜合警備保障から社会システム産業へ」
・3条件を自分たちに課すことであった。
 1)人から後ろ指をさされない、努力すれば大きくなる事業
 2)未開拓、新分野の事業
 3)前金のとれる事業
・社会から糾弾されたことで、本物のセキュリティ会社になれた。
・セコムの憲法
 ~他のいかなる組織が実施するよりも、セコムが事業化し実施することが
  最適であるとの判断が重要。他の組織が最適な場合には、他の組織で実施
  する方が社会にとって有益である。
・セコムはサービス業には珍しく、研究部門、開発部門、製造子会社をもつ。
・様々な切り口での顧客接点が多いということは、会社にとって貴重な財産。
・経営者の一番の役割は、グランドデザインを描くこと。
 デザインというものは人には相談できない。会議にもできない。
・詳細システムはミドルがデザインする。そうすると人間はこのシステムを
 自分が作ったと思うようになる。これが一番いい。
・セコムの知識創造経営は、創業者個人の中に描かれた暗黙知が、SECI
 プロセスを通じて、グループ全体に伝播していった事例といえる。
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●6章 知識の伝達と継承
 
◎福光屋「酒蔵における知の伝達」
・熟練職人技能の継承という問題に対して、福光屋では酒造用語を整理する
 といった「暗黙知の表出化」という方法を用いて対処しようとしている。
・晩酌の習慣が定着していない2~30代の若年層にいかにアピールするかが
 今後の日本酒の消費拡大における課題となってきている。
・日本酒の醸造の季節は冬に限られている。
・醸造工程における伝統技能を分析する一方で、その中で昔から使われてきた
 言葉を大事にする姿勢を保っている。
・技能を習得するのは、現場が一番いい。現場のあとで、座学をすると、
 ああそうか、そういうことかと、シューとはいっていく。座学を先にするとダメ。
・季節労働の蔵人よりも、通年雇用であることで、年間を通して日本酒に対する
 興味を持ち続け、常にセンサーを働かせることができる。
・酒販店が各黒帯会の会員となるには、3年以上の福光屋との取り引きが必要。
・熟練職人に対して、作りたい酒のイメージを触発し続けることがトップの役割。
・社長を超えた酒はできない。
・表出化すべき部分とそうでない部分を丁寧に見極めた。
・表出化においては「リーダーの豊かな比喩的言語や想像力」が各人の暗黙知
 を引き出すために重要な役割を果たす。
◎新日鐵「ニューエコノミーに移行する既存大企業の変革プロセス」
・既存の鉄鋼事業で培った高い技術力を武器として、金融ソフトをはじめとする
 システムソリューション事業で目覚ましい成果をあげている。
・最後は「彼ならきっとできる。彼でだめなら仕方ない」というところで
 読み込むしかない。
・日本IBMでハイパフォーマーを特定する要因を探るために、様々な要因を
 調べたが、結局ハイパフォーマーとその他の人を区別することができたのは、
 唯一「誰がその人を採用したか」であった。
・ハイパフォーマーを探し出すのは、結局直観しかない。
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●特別寄稿
◎日本ロシュ「スーパーナレッジクリエーション」
・社長直轄の24名のMR部隊が、スキルを1カ月のフル同行で伝達する。
・他者に説明する為自己の知を分析的に捉えなおすことによって、自己の
 暗黙知が磨かれていくのである。
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●終章 知識経営の実践
・知識創造理論は、知識経営という一つのパラダイムの核となる理論であり、
 組織経営に関わる様々な現象に対して有効な分析の視座を提供するものである。
・従来の伝統的経営学では、企業革新、組織設計、製品開発、顧客管理、
 事業創造、人材管理という切り口で分析されていた諸現象について、
 知識経営パラダイムを導入することで新たな分析が可能となった。
・共同化の背景となっているのは「現象学」である。
 現象学とは、自らの体験を反省しつつその本質を記述する方法論。
 真の知識は心身全体を使った直接経験によってのみえられる。
・表出化の背景となっているのは「哲学的対話」である。
 対話という相互作用とそこで生まれる創発的な発見の連続によって知が生まれる。
・連結化の背景となっているのは「合理主義」であr
 二元論は、既存の形式知を体系的に収集し、それらを体系づけ、新しい形式知
 を作り上げるプロセスにフィットする。
・内面化の背景となっているのは「プラグマティズム」である。
 知識や理論は毎日の生活の実践の中で検証され改善されていくもの。
・知を経営に役立てるには、知の多様性を念頭に置いておく必要がある。
・ナレッジイニシアティブをとることができるのは、本書の読者として想定して
 いる「反省的実践家」としての実務家である。
・「学問好きな実践家(scholarly practitioner)こそが、知識創造の担い手。
○素人考えだけど、経営学の難しさは、
 研究者(学者)と実践家(経営者)がはっきりと見えてしまうことなのかも。
 「じゃー、あなた経営してみてよ」と言われたときに、きつい。
 他の学問だと、そこまではっきり分かれていないのでは。
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投稿者:関根雅泰

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