「転換期の雇用・能力開発支援の経済政策~非正規雇用からプロフェッショナルまで」

お薦めの本

「転換期の雇用・能力開発支援の経済政策~非正規雇用からプロフェッショナルまで」
  樋口 美雄 (著), 財務省財務総合政策研究所 (著), 財務総合政策研究所= (著)

○欧米諸国との比較を通して、日本の雇用のあり方、今後について考えさせられる。
 「新卒一括採用は今後も続くのか?」という問いへの自分なりの解が見えてきた。

・2006年
(・引用/要約 ○関根の独り言)
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●序章
・所得格差の拡大にブレーキがかかるようになった国において共通に見られる
 のは、国民の能力開発に力を注ぎ、これを中心に据え「殻の強化から翼の補強へ」
 セーフティーネットを改革し、職業相談機能の強化を試みている。
・本書は、従来の能力開発支援策に加え、新たな政府支援、社会支援のありかた、
 について財政的視点を含め検討した研究書である。
・「多様な就業形態に対する支援のあり方研究会」の成果をとりまとめた。
・先進諸国共通の3つの課題
 1)少子高齢化 2)競争激化 3)産業構造の転換
・日本固有の問題。従来日本的雇用慣行といわれた長期雇用や年功賃金が、大きく
 揺さぶられていることに起因する問題であり、背景には企業と個人との関係に
 大きな変質が起こりつつことがある。
・本質的に変わったこと。企業と社員との関係にかつて広く存在した「保障」と
 「拘束」の関係が変質しつつある。
 自己選択と自己責任の関係にシフト。しかし自己啓発する人は増えていない。
・企業は能力の底上げを狙う教育から、リーダー教育に力を注いでいくという動き。
・企業はなぜ個人の能力開発をサポートするのか。
・従来の人的投資理論に基づけば、技能、スキルというのは「一般的技能」と
 「企業特殊的技能」とに分けられる。
・政府はなぜ個人の能力開発を支援すべきなのか。
・多様な就業形態の下での人づくりには、企業内部における能力開発とともに、
 企業を少し離れたところにおける能力開発、そして両者を組み合わせた仕組みを
 用意していくことが、日本のみならず先進各国で重要性を増しているのでは。
○学校を卒業した後、企業での能力開発の機会がなかった人もいるだろう。
 企業での能力開発というとき、それは研修というより
 「能力を伸ばせる仕事」をやらせてもらえたかどうか、その仕事を完遂させる
 ために、周囲から色々教えてもらえたかどうか、という点なんだろうな。
・今後は、少子高齢化が加速される。
 フリーター等の不安的な状況が固定化される恐れ。
・従来、日本の能力開発は、企業における業務などを通じ、社員の能力を開発する
 OJTの手法が中心に進められてきたが、企業による能力開発の対象にならない
 非正規社員の割合が増えるとともに、社内では育成が難しいプロフェッショナル
 人材が求められるようになってきている。
○企業におけるOJTは今後も続くのか? 教える側である上司、先輩も自分の
 仕事で忙しく、新しく入ってきた人間に教える「時間的、精神的余裕」がない。
 
 新人(新卒、中途)の担当する業務が自分と違う為
 「内容的」に教えることがきない。
 
 能力を伸ばせるような仕事を、計画的、継続的に提供できない。
 そうなっていった時に、職場に新しく入ってきた新人が仕事ができるように
 なるために、能力伸長を図る為にどうしたらよいのか?
 本人の努力、試行錯誤、周囲ができるだけの手助け(業務指導というよりも
 精神的支援や内省支援など)
 従来言われてきた「計画的、意図的に仕事を通じて訓練する」という意味での
 OJTは難しくなっていったとしても、
 職場に入った新人に「仕事を通じて」何かを教えていくという側面は変わらず
 存在するのでは。
 そうすると、新人と職場メンバーとの間の接点、与える仕事、新人へのフォロー
 等、今もあるOJTの課題は、今後も発生するのでは。
・第1部「多様化する就業形態」では、派遣や請負などの人材ビジネスが雇用機会
 の創出に加え、キャリア形成の支援という可能性に向けて進化していくとが
 望ましいが、現状では非正規雇用の増加は「ダブルトラック化」などの若年
 雇用者の問題を拡大し、固定化するリスクをはらんでいると論じる。
・全体として企業内人材育成と社会的人材育成をバランスさせる体制が必要であり
 企業においては戦略的意図や開発したい能力を明確にして、人材育成が
 企業経営の合理性の上に成り立つようにすべきである。
・第2部「諸外国の事例」では、若年労働市場に関して発生している問題を解決
 するための重要な手掛かりが欧州に存在すると考える。
 EU、フランス、イギリス、デンマーク。
・第3部「多様な就業形態と経済政策」では、中高年フリーターの問題、税制、
 福祉で救済するのではなく、できる限り勤労を支援することで、個人の自立を
 促すシステムなどについて論じる。
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●1章 人材ビジネスの社会的機能と課題 雇用創出機会とキャリア形成支援
・人材ビジネス(派遣と請負事業)は、ユーザー企業の人材活用における
 「数量的柔軟性」を高めることに貢献するものである。
・人材ビジネスで就業する場合には、キャリア形成が特定の企業に依存しない
 ことから、働く人々にとっては、就業職種や就業地域の選択の幅を広げることが
 可能になる。
・会社を選択するのではなく、仕事や勤務地や就業時間などを重視して就業形態を
 選択する者が増加したことが、人材ビジネス成功の背景要因の一つである。
・市場環境の不確実性が持続する限り、今後の正社員層の絞り込みが人材活用の
 基本的な方針となろう。
・企業の人材活用をめぐる環境変化とそれに対応するために行われた企業の
 人材活用の見直しが、企業の外部人材活用のニーズを増大させ、そのことが
 人材ビジネスの成長を支えたのである。
・知的熟練は、幅広い仕事の経験に加えて、理論的な知識の習得に支えられたもの
 であり、こうした職務遂行能力を保有した基幹人材の育成には相当の期間を
 要することが知られている(小池2005)
・製品の基本的な設計に関する部分は、正社員が担当している。
・派遣社員に仕事を任せると、自社の正社員が仕事の経験を通じて、技能や技術を
 覚える機会が減ることになる。それによって重要な技術や技能が社内に蓄積、
 継承できなくなることが懸念されている。
・派遣社員活用上の問題点
 1)技術や技能の伝承が難しくなる
 2)業務管理を行う正社員の負担が増す
 3)正社員の技能と経験の幅が狭くなる、機密事項が漏洩する危険がある
・請負社員の定着率の悪さ
・活用業務や活用範囲が不明確なままに請負社員の活用を増加させてきたことや、
 請負社員の定着対策が不十分であることに原因がある。
・キャリアとは一般に労働者が経験してきた仕事の連鎖を指す。
・派遣会社のキャリア管理には2つの類型がある。
 1)派遣社員が希望する仕事を探して派遣することのみを行う
  (一時点のマッチング)
 2)中長期的な視点から派遣社員のキャリアアップにつながるような仕事を
   探し提供する
・2)のような派遣会社も存在するのである。
・人材ビジネスは、特定の企業を超えた継続的なキャリア形成支援を行う可能性を
 有している。
○人材ビジネスベンチャーのグッドウィルやフルキャスト、隆盛を誇ったが。
・近年、大卒を中心として新卒採用の規模が拡大しつつあるが、これは90年代半ば
 以降における新卒の採用抑制が長期にわたったため、若年層が過度に不足している
 こと及び団塊世代の退職に対応するものであり、今後も新卒採用の規模拡大が
 持続するとは予想しにくい。
○特に、2006年~2009年は新卒採用が急拡大した。
 
 採用が抑制されたため、なかなか後輩が入ってこなかった先輩社員が、
 急に入ってきた新人にどう対応するのかが分からない。
 そこから「OJT指導員研修」のニーズが顕在化した。
 俺が独立したのが、2005年。OJT研修を始めたのが、2006年夏。
 タイミングが良かったのが大きい。
 では、これからはどうなる? 
 新卒採用の規模拡大が二度と起こらないとしたら。
 毎年定期的に少人数ずつ採用されるとしたら(それは職場にとっては望ましい)。
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●2章 若年層の雇用の現状と課題 「ダブルトラック」化にどう取り組むか
・高度経済成長期以降の日本の若年労働市場においては「新規学卒一括採用」と
 呼ばれる国際的に見ても独特な慣行により、極めて効率的な「学校から仕事への
 移行(transition from school to work)」が成立してきた。
・日本の移行のあり方の特殊性は、ある種の畸形性でもあった。
○大卒一括採用に関しては、卒業時期が3月という状況が動かない限り、
 変わりにくいかも。
 そしてこの卒業時期を、例えばアメリカの大学のように、5月、8月、12月と
 複数時期に渡らせるためには、入試時期の問題も関わってくるらしい。
 センター試験を、複数回実施するのは難しいということのよう。
・90年代半ば以降、離学とともに直に典型雇用へと移行できない若者が
 急激に増大した。
・「典型雇用」と「非典型雇用/失業/無業」という若年労働市場の
 「ダブルトラック」化ともいうべき、新しい労働市場の形が顕在化している。
・この二つのトラックの間には「移動障壁」と「処遇格差」という二重の断崖が
 存在している。
・男性の20代後半層の約3割が、非典型的雇用に従事している。
・個々の若者の現況は、彼らが教育機関を最後に離れた瞬間に、どのような状態で
 あったかによって、かなりの程度決定づけられてしまっている。
・離学とともに、大半の若者が典型雇用に従事するという日本型の「学校から
 仕事への移行」があらゆる学校段階に関して崩れてしまっている。
・典型/非典型間の「移動障壁」は、学歴が低いことなど条件が相対的に不利な
 者にとって特に厳しくそびえたっている。
・「処遇格差」は「移動障壁」のために非典型的労働者が、そこから脱出できない
 まま高齢化したときに、一層深刻な問題として顕在化する。
・典型/非典型間の「処遇格差」は、他の先進諸国と比べても日本で格段に大きい。
・「ダブルトラック構造」が、景気の多少の上昇によって大きく覆させると見る
 ことは非現実的である。
○これは怖いなー。早稲田大学の武藤教授が07年12月の日経BSセミナーでも
 言っていたけど「中高年フリーターは、1年ずつ年をとっていく」
・若年労働市場の「ダブルトラック」化は何故生じたのか。
 1)バブル経済崩壊後の長期不況
 2)第1次ベビーブーマーが、90年代に50代という賃金カーブの
   ピーク上にあり、この大量の高賃金社員の存在が企業の若年採用を圧迫
 3)バブル期に大量採用された第2次ベビーブーマーが不況下では余剰人員となり、
   企業は新たに若年者を正社員として雇用する余力を枯渇させた。
・職業上の能力やスキルを身につけられる機会が企業の外部においては極めて限定
 されていることも、正社員にならずに離学した層にとっては大きな不利を
 生み出している。
・日本では、学校教育が職業能力形成の場として有効に機能していない。
○企業の中に、正社員として採用されないと、職業上必要な能力が身に付かない。
 企業に雇用される形以外で、職業上の能力を身につけるには?
 B2Bで、起業するなら、やはりBに勤める経験はあった方がいいかも。
 B2Cで、起業するなら、もしかすると雇用される経験はなくてもいいかも。
 でも、典型社員として雇用されなかった人が、起業するのは考えにくいのかな。
・典型雇用でないほうのトラックに踏み込んでしまった者は貧困や展望の無さ
 などの苦境に即座に直面せざるを得ない。それはこの層の中に不満を醸成し、
 社会全体をも不安定にする危険がある。
・ダブルトラック化に伴う格差化は、個人の生涯にとって重要なより所である
 家族という基本的な単位すら形成することが困難な層を大量に生み出す危険を
 はらんでいるのである。
○収入の低さは、結婚率の減少、そして、少子化にもつながるよなー。
・世の中の趨勢としては、個々の若者の内面における何らかの問題性-「やる気」が
 ないこと、「自信」がないこと、「甘えている」こと、非現実的な「夢」を
 追いがちであることなどに、若年雇用問題の原因があるかのように論じる言説の
 方が声高。
・「ニート」問題は市場や制度などの環境要因ではなく、若者自身の意欲や意識
 そのものに原因があるという通俗的な理解が成立してしまった。
・若年労働市場における「ダブルトラック」を変革するための提言、そのポイント
 の一つは、90年代初頭以前の日本の若年労働市場を特徴づけてきた
 「新規学卒一括採用慣行」の縮小ないし撤廃である。
○新卒一括採用の撤廃は難しいとしても(卒業時期は3月というのが変わらない限り)
 縮小はありうるかも。
 今後、労働力の更なる多様化(女性、高齢者、外国人など)が進むなら、
 典型雇用社員を新卒一括でまかなうのは難しくなるのかも。
 その反面、自社独自の色にそめあげたい(組織社会化したい)というニーズは
 残るだろうから、新卒採用が無くなることも考えにくい。
 特に若者の人口が減っていくなら、貴重な資源としてとっておきたいという
 企業側のニーズは発生してくるだろう。
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●3章 ニート、フリーター、若年失業とマクロ的な経済環境
・ニート、フリーター、若年失業者は、90年代以降の経済停滞と共に増加。
 これらは経済問題であることを示唆。
・変わったのは経済情勢であって、若者や社会ではないのではないか。
・ニート、フリーター、若年失業の増加は、多くがマクロ的経済環境の結果である
 というのが本稿の主眼。
・若年労働問題の原因が、若者の働く意識をゆがませる社会問題や何らかの構造
 問題にあるという見解が一般的。
・推計において、若年失業率とフリーター率は、景気情勢を反映している
 失業率と深く相関している。
・ニートを豊かな社会の病理現象と説明することは基本的に誤りであり、むしろ
 貧しさの結果である。
・ニート、フリーター、若年失業問題は、一般的な失業率の低下によって改善される。
・マクロ経済運営がなにより重要。
○景気が良くなること以外に、対策は打てないものなのか。
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●4章 企業内人材育成における現状と課題 
・バブル期以降の企業内人材育成の特徴は「投資の縮小と集中」に集約される。
・1988年をピークに、労働費用に占める教育訓練費の割合を低下させてきた。
・戦後、多くの企業が採用してきた「職能資格制度」は、その制度の根幹に
 「職務遂行能力を高める」という人材育成的な要素が含まれていた。
 「成果主義」は、成果に応じて賃金を支払うという支払い方の制度であり、
 人材育成の要素を含んでいなかった。
 そのため職能資格制度から成果主義へと移行する過程で、人材育成の「空白」が
 生まれたと考えられる。
・投資効果が評価しにくいため、人材育成投資は最も削減対象としやすい経費の
 一つになってしまった。調整的な経費の扱い。
・削減された人材育成投資は、対象者を集中して投下された。研修の結果という
 「出口」ではなく、対象者という「入口」を選別。
・2003年時は「新人」と「経営層」に比重が置かれた。
・3割超にあたる非正社員に対する人材育成は一般に手薄。
・人材育成投資の縮小と相まって「教育機会に恵まれるもの」と「恵まれないもの」
 という格差が拡大している可能性はある。
・90年代に一斉に企業は「即戦力求む」というメッセージを発信してきた。
・即戦力という言葉が新卒採用の場面でも使われるようになり、それが新卒採用市場
 に誤解を与える結果となった。
・企業が大卒者に求める力は「特定の職の遂行に直接役立つ具体的な能力ではなく、
 むしろあらゆる職務に必要な基礎能力の水準を高めたりすることで、新卒者に 
 求める能力の全体的な水準を上昇させていた」
○確かに、今の新卒にはかなり高いレベルを、企業の採用担当は求めているのかも。
 実際、自分たちはどうなのか? という問いは置いといて。
・新卒で採用した人材が戦力化するには平均して3年程度の時間がかかる。
・大学教育の4年間を専門学校化させてしまった可能性。
・若年にとって、成長できるということは重要な企業選択基準であり、成長は
 「働く意味」であり、成長できなければ離職理由になる。
・企業は人材採用に熱心であるならば、人材育成投資も熱心にならざるを得ない。
・人材採用が容易な時期には採用によって戦力を確保できる一方、人材育成は
 おろそかになりやすく、反対に人材採用が困難な時期は人材育成に力を入れざるを
 えなくなる。
・2007年卒の大卒採用市場はまさしく「採用難」であり、人材育成投資に
 目を向けざるを得なくなる。
○2006年~2009年4月入社までは、企業の採用意欲が高かった。
 (2008年冬から一挙に冷え込んだが)
 採用数が増えると、内定辞退や離職を防ぐ取り組みに力がいれられる。
 「先輩社員による新人育成を効果的に行いたい」というのも、
 この人材育成投資増の一環かも。
 2010年4月入社は一挙に減った。2011年も厳しい。
 ただ、2012年は、団塊世代が65歳になり、再雇用も終わる。
・プロの論理として市場競争や管理の論理ではなく、顧客の満足のために徹底的に
 一つの道を追求していくというものである。これを「第3の論理」と位置づけ、
 そのプロの論理の回復が企業のガバナンスに求められている。
・プロがプロとして育っていくには、いくつかの段階がある。
 「仮決め」「見習い」「本決め」「開花」「無心」という5段階。
・米国では、プロフェッショナルスクールが各企業にカスタマイズした教育
 プログラムを提供することが大学の大きな収入源になっているが、日本では
 まだそのような産学連携は進んでいない。
○これは今後は出てくるかも。大学が企業内教育に関わってくる。既に兆しはある。
 業界内での競争が更に激しくなる。
・ワーキングパーソン調査(2003)により、ビジネスパーソンで学習行動を
 とっているのは、2割弱。
 学習行動に至らない理由は2つ:時間がない、時間的余裕がない。しかし、
 どちらも言い訳にすぎない(学び時間と労働時間、年収とに相関関係は無い)
 学習への取り組みが低いのは、学生時代に継続的学習習慣を身につけていなかった
 ためではなかろうか。
○これは面白いなー。
 ビジネスの世界に入った後も学習習慣を持つ人は、能力を高め、結果も出す。
 とするならば、そういう人は「学生時代に学習習慣をつけている」
 実際にそうなのかを、大学での調査と企業での追跡調査で明らかにする。
 そういうこともできるかも。
 大学教育を通して社会に出て役立つ力の一つは「継続的学習習慣」と
 考えることもできる。
 09年12月の日経の記事でも出ていたな。
  https://twitter.com/masahiro_sekine/status/6875424150
 
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●5章 人事担当者から見た企業における若年層
・2004年度から、企業の採用意欲は高まり続けている。これは1947年~
 49年に生まれた「団塊の世代」が、2007年から10年にかけて定年を
 迎えることで、中長期的に労働力が減少していくことが予想されることが理由。
・新卒採用は比較的安価な労働力を大量に確保するための最も効率的な方法である。
・新卒採用者の「質」は中途採用者のそれと比べて高いと言われている。
・人気企業であれば、60万人近い労働力の予備軍から、上澄みの人材を
 好きなだけ選ぶことができる。
・新卒はそれぞれの企業固有の「マインド」を持たせることができるために、社内で
 成果を上げやすくなるといえるかも。
・企業が求める人材像で共通するのは、基本能力と知識とマインドを備えること。
 その中でも特に重視しているのはマインドである。
 マインドは、その企業の社員全員で共有される価値観であり、それぞれ社員に
 求める働き方である。
○組織社会化の著名な研究者、シャインは、最初「洗脳」の研究をしていたそうだ。
 洗脳=brainwashing というと、マインドコントロールも連想される。
 組織社会化には、マインドコントロールの側面もあるのかな。
・学生たちの就職活動は競争であるが、その一方で同じ経験を共にする仲間が
 連帯する場ともなる。
 「みんなの就職活動日記」(みん就)での情報交換
 就職活動が、人間成長の場となっている。
・学生は就職活動を通して「とんがっていること」つまり個性的であることに
 価値を置くことを学ぶ。さらに企業の人事担当者も「光る人材」つまり集団に
 埋没しない人材を採用する。
 
 しかしこうした人材が運命共同体に帰属すると、自己矛盾に陥ることになる。
○ここが組織社会化と組織活性化の難しさなんだろうなー。
 「新人こそが組織活性化のカギ!?」
  /blogsekine/2010/02/post_310.html
・太田(1993)の「組織人格」=マインド 
 個々の企業独自のマインドを獲得することで、自己の目的とは必ずしも一致しない
 組織目的の達成に自己矛盾することなく貢献できるようになり「とんがった」
 個性をもつ新卒が、自らの独立した自由意志と判断能力を失うことなく、組織に
 属することを可能にする。
・企業が新卒採用にこだわる一番の理由は、マインド=組織人格をもった人間を 
 入れていきたいという意識。
・企業にとっての新卒を初めとする若年層は「即戦力」というよりも、将来の
 発展に貢献してもらうための潜在能力である。
・できない人材は、入試の弊害か、暗記型のパターン処理をするために、
 仮説、実行、検証という頭の回転が働かない。
・大学教育がやるべきこと、つまり特別にHow toを教えるのではなく、
 真理の探究という大学レベルの教育を普通にやっていればつくであろう能力。
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●6章 EUにおける若年雇用と若者政策
・欧米先進諸国において、1970年代後半に始まった若者の変化をもたらした
 のは、青年期から成人期への移行の前提となってきた工業化時代の枠組みが
 崩壊したことにあった。
・新自由主義の流れの中で、若者の中でも不利な状況におかれた層のアウトサイダー 
 化が進行する。
・若者政策を構成する要素(人間発達、エンプロイアビリティ、シティズンシップ)
 のそれぞれにおいて、ノンフォーマル学習(社会教育、ボランティア、社会体験
 学習)を位置づけていることが、近年のEUの若者政策の特徴。
・先進諸国では、完全雇用の時代が終わり、若年層を含め失業を常に抱える社会に
 なっている。
 そのような社会では「仕事を通して一人前になっていく=発達」という道筋が
 普遍性をもたなくなった。
・欧米諸国における若者の二極化と、その一方の極の貧困化と社会的排除の
 危険性という同じ問題が、日本の若年労働市場にも起こっている。
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●7章 フランスの雇用政策、人材育成政策とその評価制度
・フランスでは、1970年代後半から、長期にわたり失業率の高い状態が
 続いており、8%を下回ることがない。
・フランスの非典型労働は、パートタイム労働と契約社員等である。
・パートタイム労働者も、フルタイム労働者に認められた権利を同様に享受する。
・フランスの若年雇用政策
 1)見習いに代表される職業と学校教育を両立するデュアルシステム
 2)若者を雇用する経済的インセンティブを雇用主に与える
 3)国や地方自治体などの公的機関が雇用主となる
・職業能力の獲得という目的においては、見習いシステムのように企業の協力を
 得た政策の方が高い評価を得ている。
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●8章 イギリスの雇用政策・人材育成政策とその評価
・1979年からのサッチャー政権により、強い個人を前提とする競争社会を
 目指す改革が行われた。
・1997年には、労働党のブレア政権により「ニューディール政策」が採用され
 積極的労働政策が本格化した。
・日本では既に人口減少がはじまっており、労働力の確保が今後の成長のカギを
 握るとされ、特に女性、高齢者の就業率を高めることが重要な課題となっている。
・現在のイギリスの雇用戦略は2つの方針
 1)長期に労働市場から離れる人を無くす
 2)将来就職困難に陥ると予想される人を減らす
・若者向けニューディール政策 3段階のプログラム
 「Gate way」「Options」「Follow-through」
 有効という評価
・税額控除制度は、課題も山積みだが、貧困世帯に就労を促す、まさに
 welfare to work, make work pay の中心にあるともいえる政策。
 特に、シングルマザーに対しては大きな効果を上げている。
・イギリスの雇用政策の特徴
 1)個別ターゲットごとの対策
 2)地方と民間との協力体制
 3)社会保障から就労へのスムーズな移行
・ながく労働市場から離れてしまうと、復帰することが困難になったり、福祉づけ
 になってしまったり、人との接点をなくしてしまったりする。
 とにかく就労させるということは、社会の一員であり続けるために重要。
○これは日本の結婚した女性や退職した高齢者にもあてはまるかも。
 日本社会に埋もれている宝。上手く発掘できれば。
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●9章 デンマークおよびEUの雇用政策とその評価
・小国デンマークは、雇用の優等生と言われてきた。
・EU諸国の中でも、失業率が極めて低く、女性の就業率が高い。
・70年代半ばから、90年代前半までは高い失業率や赤字財政に苦しんでいた。
・デンマーク型雇用政策モデル「フレキシキュリティ」
 フレキシブル(柔軟性)とセキュリティ(保障)を結合した造語。
 過度の規制緩和と過剰な労働者保護の間をとる第3の道
 労働市場の柔軟性と雇用の保護は、互いに矛盾するものではなく、高い雇用
 流動性をもちつつ、失業給付や社会扶助によって所得の安定を保証する。
・デンマークの労働市場は、転職率が高い。
・欧州の雇用政策から学べること
 1)目標を失業率の引き下げから、就業率の向上に向ける
 2)人的投資が重要。特に若者の学校から就業への移行プロセスや就業後の
   キャリア形成を通じて、仕事の質と生活を向上させていく道筋をつける
 3)柔軟性と中立性を保ちつつ、インフラを形成し、インセンティブを高める
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●10章 欧米と日本の組織モデルの違い 
      ~なぜ日本ではプロフェッショナルが育たないか
・従来型の日本企業の組織、人材モデルとは、終身雇用、年功序列、企業内組合の
 3要素に代表されるモデルである。
・この日本の代表的大企業のモデルは、会社への忠誠心の極めて強い、質の高い
 従業員群を作り上げ、日本の高度成長時代を支えた。
・従来型の日本株式会社では、勝てそうにない分野が増大。
 継続的にイノベーションを起こせるかというゲームに変わりつつある。
・プロフェッショナル人材の定義
 -誰がお客であるか明確
 -そのお客に対して価値を提供できる
 -知恵や経験が蓄積されている
 -自立的、安定的に仕事ができる
・90年代後半から05年ごろまで「成果主義」への人事制度変更が主流。
 それまでの職能資格という能力ベースの人事体系から、実際に実現した成果に
 基準をおいたシステム
・日本では、教育やトレーニングの投資が未だに、日本人、男性、正社員に
 極端に偏っている。
・修羅場がプロを作る。逃げ場のない、究極まで追い込まれる経験を短期的に
 山ほど経験することで、プロとしての器ができる。
・日本では自前主義、純血主義で、必要な人材を内部で育てようとする。
 その結果、汎用性にかけるが、その組織のニーズには完全に合致した人材が育つ。
 プロというより、その企業独自のスペシャリストになってしまう。
○三枝さんの「経営パワーの危機」でも日本における経営的人材の不足が言われている
 30~40代から、経営者として場を与えて行く。
 数年前まで、年齢の若い経営者が話題になったが、09年、10年に大企業の
 経営者になる方は、60代以上の方々が多いなー。
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●11章 若年を中心とした雇用形態の多様化が社会・経済に及ぼす影響について
・「中高年フリーター」が増加している可能性が高い
・現在の格差が生涯にわたって継続してしまう恐れがある。
・フリーターの多くは、ずっとフリーターを続けるつもりはなく、いずれは定職を
 もちたい、正社員になりたいと考えているが、一度フリーターになってしまうと、
 なかなかフリーターから抜け出しにくいようである。
・2021年頃には、35歳以上の中高年フリーターは、約150万人に。
 50代後半のフリーターも増えてくる。
・退職金もなく、老後の生活を支える貯蓄も十分でない年金暮らしの中高年フリーター
 の存在が大きな社会問題になる恐れがある。
・フリーターの平均年収は、200万円に満たない(50代後半でも)
 正社員は、40代後半にかけて、700万円弱まで増えていく。
・正社員になっていれば現在稼げたはずの追加的な所得を諦めるだけでなく、その間
 に十分な職業経験と専門能力を蓄積できないことで、将来の獲得能力まで失って
 いることになり、生涯賃金の格差が広がっていく。
・中高年フリーターが正社員になれないことで減少してしまう個人住民税の納税額は
 年間1800億円に上ると試算される。
 減少する所得税の納税額は、年間4200億円に上ると試算。
・フリーター経験者は、正社員に比べて有配偶率が低いという調査結果。
 フリーターの増加は、晩婚化、非婚化に拍車をかける。
・少子化は何故問題なのか。働き手の減少をもたらすから。
○恐ろしくなる。あと10年後の未来。
 
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●12章 税・社会保障制度と労働供給
・税、社会保障制度は、人々の労働意欲に様々な影響を与える。
・現行の生活保護制度は、勤労控除という仕組みを持つものの、労働供給への
 インセンティブは不十分である。いったん生活保護を受給してしまうと、働く
 意欲を損ない、「貧困のわな」から抜け出せなくなってしまう恐れがある。
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●13章 人的資本蓄積と税制を考える
・日本では、政策の重点を「機関に対する補助から、個人に対する補助」へシフト
 させることが必要。
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●14章 雇用を取り巻く環境の変化に対応した制度や政策のあり方
      ~「多元的雇用・勤労福祉型システム」の創出に向けて
・長期的に見た「効率性」の追求が「公平性」実現の前提である。
・80年代に一応の完成をみた、いわゆる日本型雇用慣行およびそれを支える
 労働法、雇用政策、社会保障制度、税制、教育制度等の統一的な集合体。
 その特徴は
 1)「正社員偏重型のシステム」
 2)「労働移動制限型(企業特殊的能力育成偏重型)のシステム」
 3)「標準世帯奨励型のシステム」
・正社員は、企業と「一心同体」化することが当然視される存在であった。
・「中心」を占める正社員と「周辺」に位置づけられる非正社員との間には、
 大きな処遇格差が生じることとなった。
・日本企業では「企業特殊的能力」が育成されやすく「職業特殊的能力は
 形成されにくかった。
・日本では米国に見られるような大企業従業員の起業活動や中小企業への転職が
 活発化せず、ベンチャー企業、中小企業の成長が人材面で支えられるという
 メカニズムが働いてこなかった。
 「労働移動制限型」のシステムは、有能な人材が大企業から中小企業へ流出する
 ことを妨げたことで、70年代以降の起業活動の停滞の一因になった。
・配偶者控除は、女性の本格的な就労インセンティブをそぐ要因となった。
・90年代以降、人件費の削減が図られてきた。
 -低コストの非正社員の雇用増
 -新卒採用の大幅削減
 -中高年正社員の削減
・既存システムの修正、改変は、いくつかの深刻な問題を生じさせてきた
 1)労働力の2極化(正社員と非正社員)
 2)組織資本の弱体化(ノウハウ、DNAの蓄積)
 3)人材不足の深刻化(技能、専門、技術職不足)
・「現場の強さ」を支えてきたOJTという育成の仕組みが、従来のやり方では
 上手くいかなくなってきている。
 若い世代の勤労観が変わり、忍耐力や時間のかかるこれまでのOJT中心の
 「徒弟制度」的なやり方は通用しにくくなっている。
 人員削減で職場に余裕がなくなるなかで、かつてのOJTを支えていた現場の
 上司や先輩の「面倒見の良さ」に期待することができなくなった。
・雇用システムを、非典型化、雇用流動化、脱年功化の方向性へトータルに見直し
 ていくことが必要になる。
・今後の成長産業として期待される情報通信産業や金融サービス業、医療、教育産業
 において、有能なプロフェッショナル人材がどれだけ確保できるかが、その
 競争力を左右する。
・システムの再構築の方向性と整合的な組織、人材マネジメントのあり方
 1)コスト削減のための非正規化とは異なる多様な人材を活用するための非典型化
 2)有能なマネジメント層のリーダーシップを主軸としたチームワーク強化
 3)企業特殊的能力、職業特殊的能力の双方が育成される適度な流動性のある
   オープンな継続雇用
・欧米のデータから、正社員、非正社員の賃金格差が大きいほど、労働生産性が
 低いという傾向が見て取れる。
・日本の高齢者の就業率は、国際的に見ても誇るべき高さにある。
・今後のシステムの方向性は
 1)多元的雇用型
 2)労働移動円滑型(職業特殊能力育成支援型)
 3)家族モデル中立型、就労促進型
○p390の図 この著者の話は非常にすっきりしていて分かりやすい。
・労働法制の改革が必要。その一つとして、業務請負、業務委託が公正に行われる
 ようなルール作りが必要。
・組織形態にも多様性が認められる必要。
 とりわけNPOに期待されるのが「年金、NPO兼業」という高齢者の新しい
 ライフスタイルを創造していく可能性
 LLPは、職業特殊能力を磨いてきた人材が共同して起業する際の有力な
 組織上の受け皿となる。
・かつて企業で求められる能力の多くが企業特殊的能力であり、人材育成は入社後
 個々の企業が独自に行う部分が多かった。
 その意味で、主に企業が教育機関に求めるものは「スクリーニング機能」であり、
 必ずしも教育内容そのものではなかったという面がある。
・米国では、プロフェッション概念を体現したものとして、専門職団体が存在して
 いることの役割は大きい。
○これは太田先生の「プロフェッショナルと組織」の中でもあったなー。
   /blogsekine/2009/12/post_304.html
・業務委託の新しい形態として「インディペンデント コントラクター(IC)」
 が注目される。90年代中ごろには、IT産業における専門技術者のほか、人事、
 会計、財務関連の専門的ホワイトカラー、各種コンサルタント等、知識労働者の
 間で、自らこうした働き方を選択する動きが多く見られた。
○人事コンサルタントの田代さんは、まさしくそうだし、
 俺自身の講師業もほぼこれに近いのかも。
 複数社から研修という業務を委託されて、仕事をする。
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投稿者:関根雅泰

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