【木曜日23-12】Self-employment文献(6)

木曜日

【木曜日23-12】Self-employment文献(6)

○起業家のWell-beingに関する研究(論文8本)

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Nikolova(2019)

Switching to self-employment can be good for your health.

・自営業者の身体的、精神的健康について、因果関係を示す初の論文である。

・Job Demand-Control model(Karasek 1979)
・高いJob demands職務要求と、低いJob control職務制御は、高い心理的緊張を生み、病気に繋がる(Hihg strain仮説)
・高い職務要求と、高い職務制御(Active jobs)は、Desirable stress(Eustress)望ましいストレスとなる。それは働く人にとっては学習機会となり、新しいスキル開発ができ、熟達感を得られるようになる。(Active jobs仮説)

・Active jobs仮説は、Procedural utilityと似ている。

・選択の自由は、Happiness幸福と強く関係していて(Verme,2009)幸福は、健康につながっている。
・「Being one’s own boss」であることは、健康を向上させる。

・自営業者は、健康増進行動を取れる(例:Goldsby et al.2005)と見る反面、健康を損なう恐れもあると見る論もある(例:Cardon and Patel,2015)。
・自営業者は、賃金雇用者よりも人生の満足度が高く、病気になる日数が少なく、医者を訪問する回数も少なかった(Stephan and Roseler,2010)

・ドイツのパネル調査(SOEP)2002年から2014年のデータを分析。
・失業状態から、自営業者になった人達(Necessity Entrepreneurship)と、失業状態のままだった人達。
・賃金雇用者から、自営業者になった人達(Opportunity Entrepreneurship)と、賃金雇用者のままだった人達。

・Fig1 Fig2

・Necessity Entrepreneurshipは、メンタルヘルス(精神的健康)は向上したが、フィジカルヘルス(身体的健康)は向上しなかった。

・Fig3 Fig4

・Opportunity Entrepreneurshipは、メンタルヘルスとフィジカルヘルスの両方が向上した。

・「雇用している自営業者」と「雇用していない自営業者」を比較したが、統計的有意な差は見られなかった。

・失業状態から、賃金雇用者になった人達のデータとも比較したが、自営業者になるほうが、メンタルヘルスは向上していた。
・賃金雇用者から、賃金雇用者になった人達(転職者)のデータでは、メンタルヘルス向上という結果は見られなかった。

・Table4、5

・自営業者になることは、健康を向上させる。
・高い職務要求と高い職務制御が、自営業者の健康を向上させるのだろう。Active jobs仮説が支持された。

・自営業は「銀の弾丸」ではないが、Social welfare社会福祉の向上につながる可能性がある。
・メンタルヘルスのSpillover効果(Fletcher,2009)もあるので、家族への影響も見る必要があるだろう。

○この論文、面白かった! 「自営業者になることは、健康向上につながる!」勇気づけられる知見。

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Folkman, Lazarus, Dunkel-Schetter, DeLongis, and Gruen(1986)

Dynamics of a Stressful Encounter: Cognitive Appraisal, Coping, and Encounter Outcomes.

・Copingには、2種類ある:
 1)Emotion-focused coping ストレス感情への対処
 2)Problem-focused coping ストレスを生み出している「個人-環境」関係への働きかけ

・最低1人の子供がいる75組の夫婦に対して、月1回 6か月間 インタビュー調査を実施。

・Copingの8つのScaleを使用

・ストレスがかかる状態に置かれた時、人びとがどう判断し、コーピング手法を選ぶのかを分析。

・向き合うようなコーピングと、逃げ出すようなコーピングの両方を使う状況もあった。
・夫婦は、熱の入ったやり取りをしながらも、そこから逃げ出したいという矛盾した思いを抱くのかもしれない。

・問題焦点型コーピングは、仕事に関係するストレスへの対処として使われていた。

・コーピングは、認知的評価と強く関係していた。

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Xu, Kellermanns, Jin, and Xi (2020)

Family support as social exchange in entrepreneurship:
Its moderating impact on entrepreneurial stressors-well-being relationships.

・USと欧州経済だけでなく、発展途上、新興経済である中国の起業家を取り上げる。

・Fig1

・4つの仮説を検証。仮説1が支持され、仮説3が部分的に支持された。仮説2と4は棄却された。
・61名の起業家に対して、2週間の調査を実施。

・Financial stressorに対しては、家族の支援が高レベルの方が、起業家のWell-being(ネガティブ感情の減少、ポジティブ感情の増加)に繋がっていた。
・Workload stressorに対しては、家族の支援が高レベルの方が、ネガティブ感情の増加、ポジティブ感情の減少につながっていた。

・起業家は、事業の問題に、家族が介入することを望んでおらず、より自律性を望んでいるのかもしれない。

・平日と週末では、Workload stressorと職務満足の関係に違いがでた。

・Fig.5

・家族の支援は、ポジティブとネガティブの影響が出ることが明らかになった。
・家族の側は、平日に事業課題について起業家に介入するような支援を、起業家は望んでいないため、避けた方が良い。

○家族の側からの見方も欲しいよな。イライラしている起業家(自戒も込めて)に気を遣う家族の姿も見えそう。

・状況および時間に応じて、起業家へのストレッサーは、その特徴を変える。

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Ashforth, Kreiner, and Fugate (2000)

All in a day’s work: Boundaries and Micro Role Transitions.

○組織社会化研究で有名なAshforth教授の論文。https://www.researchgate.net/profile/Blake-Ashforth

・Role transition 役割移行を、Boundary crossing activity 越境活動と捉える。
・日々の役割移行の3領域:1)Work-home 2)Work-work 3)Work-third place 

・Boundary theory (Michaelsen & Johnson,1997等)では、個人は、環境を単純化し整理するために、boundary境を、作り維持すると考える。
・Mental Fences(Zerubavel,1991)

・Fig1

・11のPropositions命題を提示。

・Fig2

・Fig3

○家で仕事をしていると、Fig3みたいな境界になっているかも。会社から家への通勤が、Fig2みたいな境目を作っているのかも。

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Hmieleski, and Sheppard(2019)

The Yin and Yang of entrepreneurship: Gender differences in the importance of communal and agentic characteristics for
entrepreneurs’ subjective well-being and performance.

・Masculine男性的(or agentic)特徴(例:Creativity)を女性が持つとより効果的であり、Feminine女性的(or communal)特徴(例:チームワーク)を男性が持つとより効果的であるという我々の仮説を検証する。

・Fig1 概念モデル

・5つの仮説を検証。
・2500社の新規ベンチャーから、303が最終サンプル。165が男性、138が女性CEO。

・Fig2

・Fig3

・仮説1~5は支持された。

・「Dun and Bradstreet」から年間収益のデータを取り、Firm performanceで、頑健性のチェックを行った所、我々の発見が支持された。

・創業CEOにとって、創造性は、女性CEOの主観的Well-beingと業績にポジティブに影響し、チームワークは、男性CEOの主観的Well-beingと業績にポジティブに影響していた。

・男性CEOは、Communal(例:チームワーク)な特徴、女性CEOは、Agentic(例:創造性)な特徴を、表現すべきである。

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MICHEL, KOTRBA, MITCHELSON, CLARK AND BALTES(2010)

Antecedents of work–family conflict:A meta-analytic review

・このメタ分析レビュー論文では、「Work-family conflict」に絞った。
・Work-nonwork or work-life conflict measures は、より幅広い概念であるため。

・Work-family conflict 仕事・家庭葛藤は、相互に両立が難しい仕事と家庭の領域からの役割圧力による役割間の葛藤をさす。
・Work–family conflict is commonly defined as ‘‘a form of inter-role conflict in which the role pressures
from the work and family domains are mutually incompatible in some respect’’ (Greenhaus & Beutell,
1985: p. 77; see also Kahn et al., 1964).

・WFC:work-to-family conflict と、FWC:family-to-work conflictを区別することは、これまでの先行研究からも支持されてきた。

・7つの仮説を検証。
・1987年から2008年までの142の研究から、178のサンプルを抽出し、メタ分析を実施。以下の結果を得た。

・仕事領域でのストレッサーが増えると、WFCも増える。家庭領域でのストレッサーが増えると、FWCも増える。
・仕事領域での役割関与が増えると、WFCも増える。(家庭領域での役割関与の増加は、FWCを増やさなかった)
・仕事領域での社会的支援(会社、上司、同僚からの)が増えると、WFCは減った。家庭領域での社会的支援(家族、配偶者からの)が増えると、FWCは減った。
・仕事領域でのタスク多様性が増えると、WFCが増えた。職務自立性とFamily friendly organizationが高まると、WFCは減った。家庭雰囲気が上がると、FWCは減った。
・Internal locus of control内的統制と、Negative affectivity/neuroticismは、WFC、FWCに関係していた。

・Fig2 最終的なメタ分析モデル

・WFC、FWCを予測する先行要因が明らかになった。
・Negative affectivity陰性感情傾向/neuroticism神経症傾向は、Work-family conflictを予測する最も強い先行要因の一つであった。

・従業員の職務責任の明確化や、スケジュールの柔軟性を持たせることで、彼らのWork-family conflict軽減の助けになる。

〇ミニ起業家にとって、Work-family conflictは、対処すべき重要な課題。「近き者喜べば、遠き者来らん」「身近な家族を大切に」なので。Work-family conflictについては、もっと深堀してみていこう。

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Uy, M. A., Foo, M.-D., & Song, Z. (2012)

Joint effects of prior start-up experience and coping strategies on entrepreneurs’ psychological well-being.

・PWB:Psychological well-beingは、人間機能全体における認知と感情の重要な要素の一つである(Aldwin and Revenson,1987)。
・起業家のPWBは、Firm performance企業業績にも正の効果を示す(Baron,2007,2008)

・起業家は、高いリスク、収入の不確実性、過密な労働、長時間労働、重い責任等、多くのストレスに見舞われている。
・高いレベルのストレスに対しては、Cope上手い対処が必要になる。

・Copingについての知見は、Mixedである。同じCoping戦略でも、PWBを向上させることもあれば、傷つけることもある。
・Copingの効果は、文脈によるのではないか。本研究では、過去の起業経験と、測定の時期に着目する。

・PWBは、Mental healthと同義である。
・Coping methodsの2種類:Active coping(Problem-focused coping)積極的対処
             Avoidance coping(Emotion-focused coping)回避的対処

・3つの仮説を検証。
・フィリピンの起業家 156名に対して調査を実施。最近2か月間で最もストレスフルだった出来事を回顧してもらった。

・Fig1

・回避的対処と、起業経験者のPWBには正の関係があった。起業初心者の場合、負の関係があった。
・起業初心者の場合、回避的対処をして、事業から目を離すのは、事態を悪化させることにつながるのかもしれない。

・Fig2

・3か月後、起業家の回避的対処は、積極的対処を伴った場合のみ、PWBと正の関係を示した。

・ストレスフルな環境に置かれた時は、回避的対処がPWBにとっては有効だが、3か月の間には、積極的対処も行わないと、PWBは下がる。

〇ストレスに見舞われた時、起業初心者は「積極的対処」をすべきで、起業経験者は「回避的対処」をしてから、「積極的対処」をすべしという感じかな。

 確かに、起業初心者の初期段階だと、回避的対処はしづらいか、逆に回避的対処だけに逃げちゃう可能性もあるかも。

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Stephan, Rauch and Hatak(2022)

Happy Entrepreneurs? Everywhere? A Meta-Analysis of Entrepreneurship and Wellbeing.

・Wellbeingウェルビーイング(健康・幸福・善い状態)は、個人の経験と機能の全般的質を表現するものだ(Warr 2013)

・起業家を、自身の責任とリスクで仕事をする個人(Hebert and Link 1982)と定義する。

・Wellbeingには、複数の概念が含まれる。本稿では、Positive wellbeing(認知的:人生・仕事満足度、感情的:主観的ヴァイタリティ等)と、Negative wellbeing(感情的:心理的疲労感、メンタルヘルス問題等)の2つを扱う。

・Fig1 研究の枠組み

・自営業者は、幸福や楽しさなど、ポジティブな感情と、怒りやストレスといったネガティブな感情の両方を、賃金雇用者よりも強く持つ(Bencsik & Chuluun,2021)
・起業家は、高いautonomy自主性を持つが、高い仕事負荷と不確実性に向き合っている。
・起業家は、他のどんな職種よりも長時間働いている(Paye,2020)。
・起業家は、WorkaholismワーカホリックとWork addiction仕事中毒になる可能性が、賃金雇用者より高い(Gorgievsli et al.2014他)

・Williamson(2000)の4種のInstitutions機構:Resources(GDP)Rule of law(法規律)Regulation(規制)Informal institutions(文化)

・a strong rule of law 強い法規律は、その国の地方自治体や国家に対する信用を増す。
・a weak rule of law 弱い法規律は、起業家にとってストレスとなる。なぜなら、不確実性が増すからだ。

・4つの仮説を検証。
・1975年からの研究94本(82か国)から、319個のサンプル(ポジティブWellbeingに関する効果量283個と、ネガティブWellbeingに関する効果量54個)を抽出し、メタ分析を実施。

・以下の結果を得た。
・全般的に、起業家は、従業員より、高いポジティブ・ウェルビーイング(特に仕事満足度と人生満足度)であった。
・ネガティブ・ウェルビーイングについては、両者に差は無かった。
・特に、強い法規律がある国では、起業家のポジティブ・ウェルビーイングが高かった。
・弱い法規律がある国では、起業家のネガティブ・ウェルビーイングが高かった。

・「起業家的働き方」の仕事が増えている中、本研究の知見は参考になるだろう。
・ただ、起業家は、自身の犠牲(家族との時間が取れない、収入が低い等)を、正当化している可能性もある。

〇メタ分析の結果からも、起業家のほうが、従業員よりも「ポジティブ・ウェルビーイング(幸福感、心理的健康、善い状態)」が高かった!これも勇気づけられる知見。

 しかも、日本のように、法規律が強い国のほうが、よりポジティブ・ウェルビーイングでいられるってことかも。確かに、発展途上国で、法律がコロコロ変わったり、法はあっても結局ワイロが必要という状況よりも、日本のほうが安心して事業は続けられるのかも。

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投稿者:関根雅泰

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