ずーっと悩んできたことがあります。
 「うちの会社をどうするか?」
 「自分は、どう生きていくのか?」
 3月末に東大大学院を卒業した後、
 何名かの方から同じような質問をされました。
 「事業拡大はしないんですか?」
 大学院に通ったり、研究したりという時間が減った分、
 本業である研修事業に力を注げるのでは、という疑問からの
 ご質問であったと思います。
 またせっかく東大大学院で修士号を取得したわけですから、
 それをもっと活かせばよいのに、という示唆であったのかもしれません。
 
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 2005年に独立後、弊社の本業である「企業内研修事業」を通じて、
 会社は安定してきました。
 お客様や周囲の方々のご支援のお陰で、2011年度以外は基本的に
 黒字経営を続け、法人税も納めることができています。
 本年度からは銀行の融資も受け、財務面も安定しています。
 資金繰りに頭を悩まさない分、お客様との仕事に全力で向き合え、
 今後の将来像や、新商品・サービスの開発にも力を入れられます。
 「安定」という言葉(特に、家族を養える経済的安定)こそ、
 独立直後の数カ月間、必死で求めてきたものでした。
 そして、家族と共に過ごせる時間的、精神的ゆとりも得ることができました。
 その反面、悩んできたことがあります。
 「自分達だけが幸せでいいのか?」
 2011年3月の東日本大震災が、そのことを改めて考えるきっかけとなりました。
 震災直後、何もできない自分。その歯がゆさ。
 その反面「こういう時だからこそ、足元をしっかりさせないと」と、
 家族のこと、自分が住む町のこと、本業である研修事業、
 当時通っていた大学院での活動に、集中してきました。
 微々たる寄付等は続けてきても、それだけでいいのか。
 かといって、自分にできることは限られている。
 中途半端に動いて、本業をおろそかにしたり、
 家族との時間をないがしろにしては、本末転倒では・・・。
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 ところで、私が経営戦略の基盤としているは「ランチェスター戦略」です。
 (ご参考:ランチェスター戦略本
 https://www.learn-well.com/blog/2013/06/post_386.html )
 その中で、勝手に師匠と尊敬している竹田陽一先生は、
 本業以外の活動(例えば、業界団体や地域の名誉職につく事)を、
 「1階のガスコンロで、2階のやかんを沸かすようなこと」と戒めています。
 確かにその通りです。弱者である我々零細企業が、生き残っていくには、
 本業に集中すべきです。それは良く分かっているつもりです。
 その反面、「それだけでいいのか・・・」とも思ってしまっています。
 経営が大変な時(独立直後や環境激変の時)は、生き残ることに精一杯です。
 わき目もふらず経営にまい進してきています。
 へんに安定し、ゆとりができた分「他のことをしたい」と考えてしまっている
 のかもしれません。
 「社長のお金の残し方」(吉澤大 2012)の中に、
 「仕事の満足度と利益・反比例の法則」というものがあり、
 ・仕事は楽しいけれど、手離れが悪くて、あまり儲からない
 ・仕事は楽しくないけれど、段取りが良くなり、結構儲かる
 としています。
 これを見たとき、「そうそう!これだよ!」と思いました。
 決して、本業が楽しくない訳ではないですし、毎年自分なりに工夫はして、
 変化させているつもりですが、それでも継続していることで、
 マンネリ化するのかもしれません。
 (利益率の観点からいえば、既存のお客さまで継続受注させて頂けることが、
 一番ありがたいことです。)
 それに対して、先が見えない新しい仕事は、大変ですし、
 どうやって設けるかすら、分からないのですが、それでも刺激的で楽しいのです。
 (今の私にとっては、地域での活動、特にプレーパーク作りなどです。)
 元々、会社を辞めて独立したのも、新しいことに挑戦することが好きだったから
 というのもあります。
 「新しいことをやりたい! でも本業をおろそかにはできない。」
 2009年から通っていた大学院は、私にとっては、新しい挑戦でした。
 それが一段落し、新しい挑戦に飢えているのかもしれません。
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 かといって、その新しい挑戦が、本業のビジネスだけだと、
 正直物足りなさを感じてしまっています。
 「ビジネスは面白いけど、稼ぐだけでいいのか?」
 元々私は「日本の教育を変える・家族を幸せにする」といったでかいことを
 言って独立しています。
 (ご参考:弊社のミッション・ビジョン
 http://learn-well.com/vision.html )
 もちろん、今やっている仕事は、この夢に近づく一手段ではあります。
 しかし、いわゆる「社会起業家」と呼ばれる方々のように、直接的に
 社会問題の解決に挑んでいるかというと、そうとは言えません。
 大学院に通っていた当時、知り合いの若者が実際に、社会起業したり、
 そこまでいかずとも、その活動にあこがれている様子を聞くと
 「そうだよなー」と思いました。
 特に、研究をしている若い人ですと、自分の研究がどう社会の問題につながるのか
 を真剣に考えている人が多いので、自然とそうなるのかもしれません。
 私もできたら、社会起業家のように、社会問題の解決に直接的につながるような
 ビジネスをしてみたい。
 しかし、そのために、今のお客様に不義理をして、本業を疎かにはできない。
 海のものとも山のものとも分からない世界にいって、今の安定を失いたくない。
 家族を養っていかなければならない・・・
 ずーっと悩んできました。
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 しかし、ようやく方向性が見えてきました。
 そのヒントは、二宮尊徳の中にありました。
 (ご参考:二宮尊徳の本
 https://www.learn-well.com/blog/2012/07/post_365.html)
 支出の限度を「分度」と定め、それ以上の収入を「余剰」として、
 その余剰を、他人の為に「推譲」する。
 この考え方こそ、私にとって、本業をしっかりやりつつも、社会貢献する
 よりどころになるかも!と思いました。
 (もちろん、本業そのもの、および納税も、社会貢献ではありますが、
 それ以外の社会問題の解決という新しい挑戦に対して。)
 まずは、足元をしっかり固めて、分度は稼ぐ。
 それが、家族の幸せと、お客様に対する貢献につながる。
 その上で、余剰(お金だけでなく、時間や東京で得た人脈など)を
 地域の為に、推譲する。
 いわば、「2ステップ社会起業」(勝手に名付けました(笑))でよいのでは、
 と考えるようになりました。
 (これは多くの経営者の方が、CSRとしてやっていることと同じだと思います。)
 まずは本業で稼ぐ。余剰で、社会に推譲する。
 私のように、社会起業そのもので稼ぐだけの能力が無い人間にとっては、
 この「2ステップ社会起業」の方が現実的だと思っています。
 社会問題の解決をビジネスにしようとした時、それはよほど力のある経営者で
 ないと難しいと思います。
 つまり、それは普通にやっては「お金になりづらい」のです。
 だからこそ、普通にはない発想や行動力を持つ、
 今活躍中の社会起業家の方々でないと成し遂げられないのです。
 (例:フローレンスの駒崎氏や、Table for Twoの小暮氏のように)
 私にはそれだけの力はありません。
 でも、社会問題の解決に貢献したい。
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 では、自分はどんな社会問題に挑みたいのか・・・。
 それを改めて考えるきっかけになったのが、
 起業支援で有名なM.E.ガーバーの考え方でした。
 彼は、正しい事業理念にたどり着くために、
 いくつかの質問を投げかけています。
 私にとっては、次の2つの質問が刺さりました。
 「現在の社会において、あなたが一番解決しなくてはいけないと思っている
 問題は何ですか?」
 「あなたはなぜ、その問題を解決したいのですか?」
 (堀越吉太郎「起業したい人への16の質問」2013年 より)
 私がこの問いに向き合って、出てきたのは、
 「いじめ問題」でした。
 私が何故、日本の教育を変えたいと思っているのか、
 その根本まで探ってみると、小学校高学年時代に、
 自分がしてしまったいじめ、
 そして自分が受けたいじめにあると思っています。
 その時感じた様々なこと、特に怒り、が自分の原点にある気がします。
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 その原点から始まり
 ・アメリカ留学時代に知った「学ぶ楽しさ」
 ・小中学生向け学習教材の訪問販売の仕事で学んだ「家庭教育」の状況
 ・企業内研修事業で学んだ「大人の学習」と「企業・職場」の状況
 ・大学院で学んだ「研究者の考え方」や「組織社会化」の知見
 と様々な経験をさせてもらってきました。
 これらの経験が、もしかすると、いじめ問題の解決に少しでも
 貢献できるのではないかと考えています。(どうつながるかはまだ模索中です。)
 ただ、自分の経験から
 ・いじめは「教室」や「職場」という閉ざされた箱の中で起こりやすい
 ・箱を出るか、入るかするという「境界越え」の際に、いじめは起こるか消える
 のではないかと感じています。
 そして、これらの問題にかかわる際には、大学院時代の恩師である中原先生が
 良くおっしゃっている
 「~と言わない○○」
 が必要ではと考えています。
 (ご参考:中原先生のブログ「キャリア教育とは言わないキャリア教育」
 http://www.nakahara-lab.net/blog/2012/04/2012itunesu.html )
 「いじめ対策と言わない“いじめ対策”」
 「いじめ問題」を前面に出すのではなく、
 そうは言わないけど、何となくいじめが起こらない。
 そんな環境を、子供達に与えてあげられたらと考えています。
 その一助になるかは分かりませんが、
 保育園時代の仲間達との「とうちゃんず」活動や「小学校での読み聞かせ」、
 そして「プレーパーク作り」は、今後も続けていこうと考えています。
 「箱」が仮に問題の原因だとするならば、少なくとも「風通しの良い箱」に
 できたらと考えています。
 地域の人(しかも顔見知りの父ちゃん、母ちゃん)が、学校に出入りする。
 近所で会ったら、声をかける。
 なんとなく、子供達を、皆で見守っている雰囲気を作る。
 それでいて、学校の先生以外の大人を見ることで「箱の外の世界」を感じさせる。
 特に「楽しそうに生きている大人の姿」を見せることで、
 「なんか面白そう」と子供達に思ってもらう。
 「(箱の外にも)世界は広がっている」ことを感じてもらう。
 それがもしかしたら「いじめ問題の解決とは言わない“いじめ問題の解決”」に
 つながるのでは、と漠然と考えています。
 「目線は高く、足元は固く」
 まずは自分が住んでいる地域から始めていこうと考えています。
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 以上、つらつらと書き連ねてきましたが、最初の問いである
 「事業拡大はしないんですか?」
 に対しては、現状
 「事業拡大はしません。売上、従業員規模は、現状を維持します。
 既存のお客様を大事にしつつ、研修日数は現状の80日程度に抑えます。
 その分、余った時間を地域活動に活かします。」
 とお伝えしたいと思います。
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