「キレイにまとめる研修」と「モヤモヤ感」

企業内教育担当者向け

中原先生のブログ記事(09年7月24日)「キレイにまとめる研修」
 http://www.nakahara-lab.net/blog/2009/07/post_1548.html
で出てくる研修講師は、おそらく私のことだと思います。
(どちらかというとネガティブな話なので、先生がご配慮くださっていますが)
先生が記事内で表現された講師ですと、
・この講師は、「導管モデル」を前提としている。
・「正しい答え」を、参加者に注入しようとしている。
しかし、先生の疑問として
・そもそも「正しい答え」が存在するのか?
・それを与えられた参加者の行動変容につながるのか?
・そもそも学びを促していない研修で、参加者満足度のアンケートをとっても
 意味がないのではないか?
読んだ当初は、正直ショックを受けました。
と同時に「言われてみれば、確かにそうかも」と思う点と、
「ちょっと誤解して伝わってしまったかな」と思う点もありますので、
先生が書かれた内容に関して、少し補足説明をさせて頂ければと思います。

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私が関わる範囲内でのことかもしれませんが
企業内研修においては「モヤモヤさせない」ことが、重視されていると思います。
「モヤモヤさせない」というのは、例えば、
「あれもあって、これもあって、それもあって・・・」という講師の説明で、
参加者が「じゃー、一体なんなの!?」と思われる状態です。
この「モヤモヤ感」が、Good Learning であるということを、
慶應MCC 守島基博先生のセッション(09年6月18日)で学び、
私が担当させて頂いたセッション(09年7月9日)でも意図的にやってみました。
「意図的にやってみた」というのは、
今までの研修ではやっていないことだったからです。
かといって、それは研修中に参加者に「正しい答え」を
与えているという意味ではありません。
私も、ただ一つの「正しい答え」が存在するとは思っていません。
では、研修で伝えていること、モヤモヤ感を出さないようにするとは、
どういうことなのか?
それは
1)参加者/企画者が「言ってほしいこと」を言う
2)現場で実践すればおそらく「上手くいく確率の高いこと」を言う
3)最大公約数的に、多くの参加者が「納得できること」を言う
ということではないかと思います。
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1)参加者/企画者が「言ってほしいこと」を言う
まず、企業内研修においては、「目的と目標」があります。
・何のためにやる研修なのか?
 (そこには企画者が伝えたい意図がある)
・何を目指してやる研修なのか?
 (そこには参加者に到達してほしいと企画者が意図する状況がある)
その達成を目指して、我々外部講師は、研修を企画し、
例えば1日間の研修を運営します。
ですから、企画者の「意図」を踏まえ、彼らが「言ってほしいこと」を
代弁しようと努力します。
次に、参加者の立場から見ても「言ってほしいこと」があります。
例えば、
・皆、悩んでいること、不安に感じていることは一緒
・こういう風にやれば、だいたい上手くいく
・他社では、~で上手くいっている。~で上手くいっていない。
つまり、研修に参加している参加者の不安を解消し、
安心感を与えるという役割です。
「こうも言える。ああも言える」と「拡散」だけで終わらせるのではなく
何らかの形で「収束」を図ろうとする。
その収束の行きつく先が、企画段階で立てた「目的・目標」である、
ということでしょうか。
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2)現場で実践すればおそらく「上手くいく確率の高いこと」を言う
「正しい答え」に関連して、今、小1の娘の宿題を手伝っていて、
感じることがあります。
学校時代の「答え」は、おそらく「結果」のこと、つまり、Whatである。
例)
 ・1+1=□
 ・□+3=10 
 ・誰が、言いましたか? □
 
  
  □にあてはまるものは何か?
それに対して、社会人が求める「答え」は、「解決方法」つまり、Howである。
 ・どうやれば上手くいくのか?
 ・どうすれば効率よくできるのか?
 ・どうすれば結果がでるのか?
その「解決方法」に、たったひとつの「正しい答え=正しいやり方」はない。
中原先生が、別のブログに書かれているように、
 http://www.nakahara-lab.net/blog/2009/07/post_1540.html
一般的なビジネス書は、その「答え」を提示しようとし
考えさせるビジネス書は「モヤモヤ感」がある。
研修においては「上手くいく確率の高いこと」=「いくつかの解決方法」という
提示の仕方をしています。
・理論的裏付けがあり
・他社でも実績が上がっていて
・伝えている講師自身の経験からも
「これを、現場で実践すれば、おそらく上手くいきますよ」という趣旨で伝えます。
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3)最大公約数的に、多くの参加者が「納得できること」を言う
「モヤモヤ感」を起こさせないという点に関しての3つ目。
「集合研修」ですから、多数の参加者がいる中で、多くの参加者にとって
「納得できること」を言う努力をしています。
「確かに言われてみればそうだよね。」
「自分の経験に照らし合わせてみても、そうだ。」
「あるある!そういうこと」
それが「モヤモヤ感」を防ぐことにつながっていると思います。
逆に、
「いやー、なんか納得いかないなー。」
「そんなのうちの会社にはあてはまらないよ。講師の一般論じゃないの。」
「ないよ、そんなこと!」
と、参加者に思われたら、研修内容そのものに対する信頼性が失われます。
多くの参加者に納得して頂ける内容を伝える。これも講師の役割だと思います。
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・・・と、ここまで、研修で「モヤモヤ感」を出さない、ということについて、
私が考えていることを述べました。
ただ、これも長岡先生の言う「企業側の視点」
「経営学の視点」なのかもしれません。
https://www.learn-well.com/blog/2009/07/post_245.html
お金を出して、外部講師を使う企業側の教育担当者を
擁護しているのかもしれません。
それは、ひいては、外部講師の自分自身を正当化しているのかもしれません。
半面、「学習者の視点」ではどうか?
「モヤモヤ感」がないことが、本当に参加者にとってよいことなのか?
・慶應MCCで、参加者としての自分が感じたように「モヤモヤ感」があった方が
 実は、考えさせられること、学ぶことが多いのではないか。
・ラーニングBarに参加した後、電車の中で、どんどん言葉が浮かんでくる状態。
 これは「モヤモヤ感」があるからこそ、できることではないのか?
・慶應MCCで、自分のセッションで初めて「モヤモヤ感」を取り込んだ時、
 自分自身が感じた興奮、参加者の反応は何だったのか?
 同じことを同じように繰り返す研修ではなく、講師側にも刺激がある、
 あの形態が、本当の学びではないのか?
長岡先生が「研究者は常にモヤモヤしている」ということをおっしゃっていた。
きっとそうなのだろう。
ビジネスパーソンは「モヤモヤ」を好まない人が多いように思う。
・時間がない
・常に結果を出すことを求められている
・常に何かと競争している
そんなビジネスパーソンにとっては「モヤモヤ感」は知的刺激にはなるけれど
「結局、何なの?」「つまり、何?」「要するに、どういうこと?」「で?」
と、結論を急ぎたくなる人も多いのではないか?
そんなビジネスパーソンを相手にした企業内研修だから「モヤモヤ感」よりも
「言ってほしいこと・上手くいく確率が高いこと・納得できること」を
重視してしまっているのではないか?
でも、それが、参加者の「学び」を妨害しているとも考えられる。
他にも色々な選択肢があるかもしれないのに、
講師が伝えるいくつかの選択肢のみになってしまっているのかもしれない。
今でてくるまとめとしては、
・学習者として、私自身は「モヤモヤ感」を歓迎する
・企業研修講師として、研修内に「モヤモヤ感」を入れることは、
 一部においてはOKでも、まだどう入れていいのか分からない。
というのが正直な気持ちですね。
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余談ですが、
「上手くいく確率の高いこと」を研修で伝える。
正直、これは、講師にとっては楽なことです。
大変なのは、そこで伝えた内容を、実際に現場でやってみて上手くいかなかった
そういう状態で行う「フォロー研修」は、講師にとってきついのです。
つまり、大体のネタは、初期の研修で伝えている。
そのネタを使って、参加者が現場で実践して上手くいかなかったとする。
(上手くいかない原因は色々あると思います。
 ・使い方が悪かった
 ・使う相手、状況が、不適切だった
 ・たった1回の失敗で、あきらめてしまった
 これは、カークパトリックの4レベルで言うと「レベル3」の「実践度」に
 関する問題と関わってきます。)
そうすると「フォロー研修」では、そのやり方を伝えた講師に対する不信感から
始まるケースもあるのです。
「やっぱり研修で学んだことなんか、現場で使えない」
そういうネガティブな状態から、研修がスタートすることもありえるのです。
そういう意味で、講師にとって「フォロー研修」はタフですが、
やりがいもあります。
参加者のレベル3「実践」を支援するためにも、
例えばスキル系であれば「正しいスキルの使い方」を再点検する機会があると
より望ましいのかもしれません。
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(中原先生、色々と考えるきっかけを下さりありがとうございました!)

投稿者:関根雅泰

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