「フィールドワークの技法」

お薦めの本

「フィールドワークの技法 ~問いを育てる、仮説をきたえる」
  佐藤郁哉著

○フィールドワークを行う際の落とし穴がよく見える。

(・引用/要約 ○関根の独り言)
1.暴走族から現代演劇へ~体験としてのフィールドワーク
・民族誌(エスノグラフィー)は、むしろフィールドワーカーと現場の人々の
 対話や議論にとっての新たな出発点になるべき。
 (現場の声を民族誌にまとめて終わりではなく)
・妻に文章をチェックしてもらう
2.他者との出会いと別れ~人間関係としてのフィールドワーク
・フィールドワーカーは「身内」の一人になろうとしながら、一方では「よそ者」
 としての構えをとる。それはストレスのかかること。
・それぞれの社会には、外部からやってきた調査者の人柄や目的を値踏みし、
 調査や取材の可否を判断し決定する権限と責任をもつ門番のような役割を
 担う「ゲートキーパー」がいる。
○田舎に家をたてた今、このゲートキーパーの存在を感じる。
 私がその地域にふさわしい人物なのか、値踏みしつつ、
 少しずつ色々なことを教えようとしてくれる方の存在。
・フィールドワーカーの「得体の知れなさ」という問題を解消するために
 有力な「ツテ」を探すこと、そして最終的な報告書のイメージを提示すること。
・交際の範囲は偏らないようにする。
・うろうろしながら、そこにやってくる青年たちから話しかけられるのを待つ。
・頼りになるゲートキーパーやスポンサーが誰かを見極めることは、調査や取材の
 鍵を握るうえで極めて重要なこと。
○この辺りは、営業活動にも似ているかも。
 「窓口担当者」から「インフルエンサー(影響者)」「意思決定権者」を
 探していくプロセス。
・アクセスに際してどのような困難に直面したのかについて分析していくことは
 その社会がどのような性質をもっているかを見極めるうえでのチャンスになる
・フィールドワーカーは、その社会における「新人」のような立場や位置づけに
 なることが多い。
 異文化の中に入りこんでその場の慣習を学んでいくフィールドワークというのは
 いわば文化的な子供時代の再現であり、成人してから体験する一種の再教育、
 あるいは再社会科のプロセスであるともいえる
・最も理想的なインフォーマントは「西も東もわからない」フィールドワーカーに
 対して現地の常識や作法について根気よく教えてくれる師匠や先生のような人
 どのような社会であっても、たいていは新人や新参者に対してその社会で
 生活していくために必要な知識や技術、わきまえておくべきマナーなどについて
 教える役割を担う人たちが存在するもの
○企業に入ってくる新入社員に対する教育担当者(会社社会)
 OJT担当者(職場社会)がそれにあたるのだろう。
・好感をもって迎えられるのは、自分の無知を率直に認めて現地の人々から
 謙虚に学ぼうとする姿勢
・矛盾や非一貫性をできあいの概念や理論を使って性急に単純化したり
 抽象化したりして切り捨てず、なんとかすくいあげようとする
 「恥知らずの折衷主義」は「トライアンギュレーション」「マルチメソッド」
・フィールドワーカーはむしろ異人として構えを維持する必要がある。
 その際のストレスを解消する上で、フィールド日記がきわめて効果的な
 自己治療の道具になる。
・現地の当事者は必ずしも自分たちの社会について一番良く知っている人々で
 あるというわけではない
○外部講師である自分が、研修をする際に、この考えがよりどころになるかも。
・対象者と同一化しすぎることによって生じる「オーバーラポール」の問題が
 ラポールの問題と同じくらい、あるいはそれ以上に深刻な問題となりうる。
・自分の抱えている悩みや問題が実は自分だけのものではなく、多くの人に
 共通しているものであることが分かると、それだけで悩みや苦しみが薄れていく。
○これは「新人フォロー研修」で特に感じること。
 悩みや苦しみの共有はやはり大事。
3.「正しい答え」と「適切な問い」~問題構造化作業としてのフィールドワーク
・フィールドワークという調査法の本質は、調べようとする出来事が起きている
 「現場(フィールド)」に身を置き、自分自身の目で見、耳で聞き、肌で感じた
 体験をもとにして、一次資料を集める作業(ワーク)をおこなう点にある。
・そもそも何を知りたいのかを明確にする。
○新人が職場でどう育つのか? 新人の成長を促進する要因には何があるのか?
 「新人が成長した」ことを、周囲はどのように把握するのか?
 どんな時に「成長した」と、本人は感じるのか?(松尾先生の調査)
 周囲はどのような働きかけを行うのか?
・フィールドワークを通して入手できるデータには、正しい答えを導き出すための
 材料つまり「現実の社会現象をより的確に説明できる答えを作り出すための材料」
 という側面だけでなく、適切な問いを組み立てるための材料つまり「理論的にも
 現実的にも意味のある問題設定を行うための材料」というもう一つの側面がある。
○「それを知ることで、なんの役に立つの?」という疑問に答えられる「問題設定」
 何を知りたいのか、それを知ることが本当に役に立つのか、意味あることなのか。
・致命的な落とし穴の一つに、学術用語とも日常用語ともつかない中途半端な用語や
 概念を無批判に使ってしまうというものがある。
○これは気をつけないと。
・先行研究を検討する際の文献リストの作成が重要。
 研究テーマと一つ一つの文献との関連を明らかにする。
・リサーチクエスチョンが最も明確なものになるのは、フィールドワークの作業を
 あらかた終えて報告書としての民族誌を書いているときのことの方が多い。
・フィールドワークの結果をある程度まとまった文章にしていく作業をなるべく
 早めに行ったほうがよい。
・現地社会(フィールド)の事情に対する土地勘があると、現地の人々にとって
 何がリアリティーのある問題であるか、共感的に理解できる。
○職場の人々にとって、何がリアリティーのある問題か。
 新人を早く一人前(手がかからない、自分で仕事をしてくれる)にするには?
 そのために、自分たちは新人にどのような絡み方をすればよいのか?
・リサーチクエスチョンは、理論的、学問的にも意味があるものでないと。
 すでに同種の研究の蓄積があり、あらためて調査研究を行わなくても答えが
 わかりきっている問題について調査をしても意味がない。
 ただ、どの程度の先行研究があり、また現在どの程度まで問題が明らかになって
 いるのかについて、調べるのは容易なことではない。
○ここが、最初につまずくところなのかも。
・低レベルのサーベイ調査 
 独断、偏見、思い込み、人生経験、勘、狭い範囲の日常経験からの問題設定
○これは気をつけないと。
・フィールドワークを行うときには、次の点をチェックする
 問題設定(問い)に関する問い
 -この問題については、先行研究ではどこまでは分かったとされているのか?
  通説に「穴」はないだろうか?
 -わかっていないのは、どのような点についてなのだろうか?
 -この問題設定は、理論的に意義があるものなのだろうか?
 -これは現場の人々にとってもリアリティーのある問題なのだろうか?
 仮説(仮の答え)に関する問い
 -まだわかっていないことはどんなことなのか?
  それを明らかにするにはどのようなデータをどのような手順で進めればいいのか?
  そうした場合、どんな結果がでると予測できるのか?
 -調べようとする問題は、いまどの程度明らかになったのか?
 
 -どういう手順で、また、どういう根拠(データ)で、それが「明らかになった」
  といえるのか?
 -明らかになったことは、はじめの予想と同じだったか?
  違っていたとしたら、どのように違っているのか?
  どうしてそんな違いが出てきたのか? 
  調査を始める前は思いもよらなかったような発見はなかったか?
・民族誌全体の主張を一言で表現できるようなキーワードやキャッチフレーズが
 できあがったとき、調査はあらかた完了したといえる。
・アドバイス
 1)先行研究などの文献をしっかりと読み込む
 2)文献リストを作ったり、読書メモを書いたりして、関連する研究分野の
   現況を把握しておく
 3)文献を読むだけでなく、現場に入り込んで何が実践的に意味があり、
   またリアリティーのある問題なのかを明らかにする
 4)浮かんできたアイデアはメモやレポートとしてこまめにまとめておく
・試行錯誤を通して文献の探し方や、テーマや問題の見つけ方について学ぶ
 プロセスそれ自体が、きわめて大切な作業。
○自分が勉強すべき先行研究のリストがあったら楽だなーと思っていたけど、
 それを自分で作っていくことに意味があるということなんだな。
4.フィールドノートをつける~「物書きモード」と複眼的視点
・フィールドノーツは、調査地で見聞きしたことについてのメモや記録の集積
・Rashomon=証言の食い違い、一つの出来事をめぐる異なるバージョンの説明の存在
・鳥の目と虫の目のバランス
・未来の自分は他人 (後から読んでわかるようなメモをとる)
・すぐにメモをもとにして清書をしておくこと
○これは、営業時代に顧客との面談後すぐに「面談記録」を記入していた経験が
 役に立ちそう
・いい情報を手に入れるためには、いい視点が必要になるが、
 いい視点を作り上げるためには、いい情報が必要にある。
・時間順に記録する。
・清書版フィールドノートは箇条書きではなく、物語的な記録が望ましい。
・民族誌の章立てや中間報告書をできるだけ早い段階で書いておく。
・書くことを通して、頭の中だけでなく、手と目で考えている。
・現場調査の結果をまとまった文章として書き上げるときにこそ、
 真に意味のあるカルチャーショックを体験している。
5.聞き取りをする~「面接」と「問わず語り」のあいだ
・問わず語りに耳を傾けるのが、インフォーマルインタビュー
・フォーマルインタビューは、問題設定が明確であり、
 仮説ができあがっている時に有効。
 インフォーマルインタビューは、問題発見や仮説生成時期に適している。
・現地の人々が「何を」話したかだけでなく、「どのように」話したかという点
 についても細心の注意が必要。
・最終的に公表する段階では、慎重な配慮が要求される。
・フォーマルインタビューでは、十分下調べして質問を準備したうえで、
 相手から「どうして特にこの私を選んで聞くのか?」と訊かれても答えられるよう
 にしておく
・問いが構造化されているということは、それに対応する仮説、すなわち
 予想される答えそのものがかなりの程度構造化されているということ。
・フォーマルインタビュー時には、依頼書、質問リスト、年表などを
 準備しておく。
・聞き手と話し手の共同作業を通じで、仮説をより厳密なものとしていく。
6.民族誌を書く~漸次構造化法のすすめ
・分離エラーに満ちた論文 問いと答えのちぐはぐな関係
 あえて調査をしなくても、結論は最初から決まっているか
 本来は事後解釈であっても、あたかも初めから仮説があったかのように書く
○気をつけないと・・・
・裏付けとなる資料やデータをたたみかけるように提示する
・一見矛盾と見えるようなパターンについて説明できるロジックを築き上げられた
 ときにこそ、民族誌は「分厚い記述」となる
・良質な民族誌を読むべし

投稿者:関根雅泰

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